想い出の演奏(26)

ーまさに「名人伝」の世界ー

ポリーニの至芸!


夕食後、妻がブルーレイに収録していたポリーニのピアノ、ティーレマン/シュターツカペレ・ドレスデンによるブラームスのピアノ協奏曲第2番を鑑賞しました。

三週間前の京都・大阪で開かれた同窓会に出席した疲れがようやく出始めたことと(年齢をとると、身体の反応も遅れてくるのですね)、

その後、立て続けに入ったボランティアの仕事が重なって、風邪をひいたらしく、

温かめにした炬燵に足を入れて暖をとりつつ、うたた寝しながら聴き始めました…。


第1楽章冒頭、ホルンの美しい響きに導かれて、寄り添うようにピアノが登場、

ピアノの全く恣意を感じさせない自然な入りに、「これは!」と瞠目したところまでは覚えているのですが…、

その直後からしばらくは、睡魔に負けて白河夜船の状態に…。


目が覚めたのは、第2楽章Allegro appasionatoの途中でした。

ピアノとオケが、丁々発止とせめぎ合ってはいるのですが、

ピアノの音色が、見事にSKDの響きとマッチしていて、

直ぐに尋常ならざる素晴らしい演奏が展開されていることに気付き、遅まきながら惹き込まれていきました。


第3楽章は、独奏ピアノとチェロ、それにオーケストラが三位一体となった美しい演奏が、展開されていきます!

最近、楽壇の情報に疎くなってしまっていて、SKDの首席チェロ奏者の名前も知らないのですが…

次第に目頭が熱くなってきたのは、決して年齢のせいだけではないでしょう。

終楽章に入っても、ポリーニのピアノは全く恣意を感じさせることなく、オーケストラの中から自ずと湧き上がるように響いてくるようで、

まさに、技を究め尽くした演奏と感じました!


この演奏を聴き終えて、私は中島敦の短編小説「名人伝」を思い浮かべました。

「不射の射」を体得し、真の弓の名人となった主人公は、やがて弓そのものの存在も認識しなくなるという、あの小説です…。

この演奏におけるポリーニは、まさにそんな境地に達したのではないかと思えるほど!

「生涯に一度でいいから、こんな演奏をコンサートホールで体験したい!」

そんな夢を新たに抱かせてくれた、至高の演奏!

間違いなく私のこれまでの生涯で聴き得た、最高の演奏と申し上げられるでしょう