重苦しくも力強い音楽は、様々な矛盾に悩みながらも社会正義を貫く刑事たちの生きざまを描いた、そんなドラマのイメージにピッタリな曲だとおもっていました。
当時はショスタコーヴィッチの曲など、演奏されることはほとんどありませんでした。
ですから、番組を見ていた大部分の人は、この曲をオリジナルなテーマ曲と信じて疑わなかったと思います。
1964年、東京オリンピックの年、夭折した天才指揮者ケルテス/ロンドン交響楽団の日本公演で、標題の曲がTV放映されました。
曲よりも、新進気鋭の指揮者ケルテスの雄姿が見たくって、私はTVの前に釘付けになっていました。
冒頭から暗く重々しい曲でしたが、唐突に馬鹿騒ぎしたり…。
悲痛に打ちひしがれた中に、突然この世のものとは思えない清浄な旋律が浮遊したり…。
それまでに聴いたこともない音楽に、強く惹かれていったことを記憶しています。
第4楽章の開始と同時に聴き慣れた曲が流れだした時、この曲がクラシック音楽だと知って、狂喜して、すごい優越感を覚えたはずです。知らず知らずの間に馴染んでいた曲の題名が判明した時、皆さんはどんな風に思われるのでしょうか…。
翌日登校すると、誰彼無しに「部長刑事のあのテーマ曲はなぁ!」と、自慢げに吹聴して回りました。
しかし、ある学友から「今まで知らんかったんか。レコード持ってるから全局聴いてみるか!」とのショッキングな一言。
私の優越感は木端微塵に打ち砕かれました。
勿論、ロジンスキー指揮するそのレコードを、ありがたく拝聴させて頂きましたが…。
バーンスタイン/ニューヨーク・フィル盤(旧)を購入したのは、大学を卒業する頃でした。
当時の彼の演奏は、緩急の幅が大きなダイナミックなもの。
カセットテープにダビングして、車を運転しながら繰り返し聴いたものでした。
音量を上げて高速道路を走行中、第1楽章の小太鼓が刻むリズムに乗せられて、ついついアクセルを踏んだために、スピード違反で覆面パトにつかまったり…。
第3楽章を聴きながら夜の山道を走っていた時、暗闇に吸い込まれそうな恐怖感に襲われたために、慌てて曲を止めて、気を紛らわすために大声で演歌を歌ったり…。
それまでのクラシックから得た感動とは一味も二味も違った、サスペンスを楽しむような感覚で聴いた曲でした。曲の解釈云々が言われる昨今も、難しいことは一切抜きにして、そのスリリングさを楽しんでいる曲なのです。