想い出の演奏(10)

-いきなりイタリアの空を感じた演奏ー

メンデルスゾーン:交響曲第3番『イタリア』

トスカニーニ指揮  NBC交響楽団


 昔、FM放送の黎明期(未だ試験放送中だったかもしれません)に、トスカニーニアワーという番組が放送されていました。

イタリア人指揮者トスカニーニ(1867〜1957)については、学校の音楽のサブテキストで20世紀最高の指揮者≠ニ評されており、

音楽の授業では、先生から「昔は重々しくジャジャジャジャ〜〜ン≠ニ演奏されていた『運命』の冒頭を、

迫力満点にもの凄い速さでダダダダーン≠ニ演奏した、偉〜いオッサン!」と教えられていましたので、

クラシック音楽に興味を持ち始めたばかりの私は、興味津々この番組は毎週欠かさず聴いていました。

 月々の小遣い300円の私にとっては、一枚1800〜2000円のLPなど簡単に買えるものではなく、FMのクラシック番組は唯一と言って良い貴重な音楽ソースでした。

それに、一時期からは当たり前のように組み込まれるようになったカセットデッキも、当時はまだまだ高嶺の花。

その頃は、放送を聞く事自体、コンサートと同じように一期一会の真剣勝負でした。

ですからトスカニーニの演奏を、スピーカー前ににかじりつくようにして聴いたものです。

 この番組で初めて聴いた数々の曲の中でも、ムソルグフスキー『展覧会の絵(古城)』や、レスピーギ『ローマの松(アッピア街道の松)』の鮮烈な印象は、今も心に残っています。

その中でも、このイタリアの冒頭部!

最初の和音が鳴り響くと同時に、スピーカーの前の空気が一変し、地中海の抜けるような青空が広がったように感じたことを、50年近くが経過した今も、鮮烈に覚えています。

 先日、G.シノーポリ指揮・フィルハーモニア管弦楽団の演奏で『イタリア』を聴きました。

冒頭の響きを耳にした瞬間、この曲を初めて聴いた時の感動が生々しく蘇えりました…。

絶妙のカンタービレで奏され、美しすぎるが故に哀愁さえも感じさせる第2楽章。

今まで聴いたどの演奏よりもゆったりと歌われる第3楽章には、これまで気付かなかった様々な美しい旋律を発見できます。

実を言うと、40年前に初めて『イタリア』を聴いた時は、正直第1楽章冒頭部には感動したものの、その後はつまらない曲という印象しか持ちませんでした。

それからも様々な演奏を耳にしましたが、曲に興味を惹かれることは有りませんでした。

 シノーポリの演奏で、初めて感動しつつ全曲を聴き通した時、懐かしさの感慨はトスカニーニの演奏に由来するものと確信しました。

当時は私のレセプターがまだまだ未成熟であった為、彼の演奏が発する強いメッセージを感動にまで高める事が出来なかったのでしょう。

それは『展覧会の絵』『ローマの松』でも、後年素晴らしい演奏に出会った時に、今回と同じような感慨を覚えた事からも推察できそうです。

今、トスカニーニを聴き直したらどう感じるのでしょうか…。