想い出の演奏(8)

-最高級のデザート-

C.グノー:歌劇『ファウスト』よる“ファウストのワルツ”

ヤノフスキー指揮  フランス国立交響楽団


 アンコール(仏:encore)とは、音楽辞典に拠ると「音楽家が聴衆の喝采に応えて、同一又は異なった曲の全部又は一部を演奏すること(礼奏)」。

メインプログラム終了後の余技として演奏されるものですが、時にアンコール曲が感動を更に高揚させてくれる事も有ります。

が、逆に聴衆の執拗なまでの拍手に応えざるを得ず、折角入念に組み立てられたメインプログラムでの感動が、その為にぶち壊された経験も体験しています。

私の体験した最悪の例は、クレーメル(Vn)・アルゲリッチ(P)の演奏会。

世界の楽界を代表する二人が、ベートーヴェンのソナタ三曲の後、執拗なアンコールに辟易したのか、蛍の光≠最後に舞台を去ったのには、正直がっかりしたものでした。

 近年元旦の夜に放映されているウィーンフィルのニューイャー・コンサートの最後に演奏される美しく青きドナウ∞ラデッキー行進曲≠ヘ、アンコール曲目であることはご存知だったでしょうか。

大いなるマンネリ、と眉をひそめる方もいらっしゃるでしょうが、あの二曲が演奏されることにより祝典気分が一段と盛り上がることは間違いのない事実です。

どうせ演奏してくれるのなら、此処まで配慮して欲しい、と思うのは私だけではないと思うのですが…。

 私が体験した演奏会の中で、最高のアンコール曲の演出、と感じたのは、フランス国立交響楽団の演奏会。

当日のプログラムは、一曲目は忘れましたが、ラヴェルのピアノ協奏曲≠挟んでサンサーンスの交響曲第三番=B

ホールに鳴り響いたオーケストラとパイプオルガンの響きに酔いしれ、それだけで充分に満足できていたのですが…。

続くアンコール曲はF.シュミットのノートル・ダム♀ヤ奏曲。

メインプログラムの華やかな感動に湧いた興奮が、悲劇的な音楽で鎮められ、場内には緊迫感が漂ったように感じました。

 そんな雰囲気が漂いつつも、更なるアンコールの拍手が鳴り止まぬ中、突然指揮台に飛び乗ったヤノフスキーが、美しくも華やかなワルツを演奏し始めたのです。

それは、充分に堪能したメインディッシュの後に出された最高級のデザートを味わう様なもの。

会場全体が大いに盛り上がり、寛いだ満足感に包まれコンサートは終了しました。

 この時演奏されたワルツの、活き活きとした華やいだ雰囲気を再現してくれるのが、カラヤン・ベルリンフィルによる標題のディスクです。

曲の開始と同時に、気分を最高潮に高めてくれる序奏部、それに続く心が浮き立つ様な二つのワルツ。

スタジオ録音でありながら実に感興が豊かで、カラヤンの類い希なセンスがいかんなく発揮された名演、だと思います。

無条件に気持を豊かにしてくれる、ここ十年来、私が最もしばしば聴いているディスクです。

※この曲は『オペラ間奏曲&バレー音楽名曲集』(FOOG 27072)に収載されています。又、 グノーの『ファウスト:バレー音楽集(全七曲)』には、この曲は含まれておりませんの で注意して下さい(但し、これはこれで楽しく親しみ易い曲集です)。