想い出の演奏(7)

-懐かしいTV画像を想い出した演奏-

J.シュトラウス2世:ワルツ『レモンの花咲く所』

ボスコフスキー指揮  ウィーン・フィル


  我が家では電波事情が悪い為に、長らくVHFの映像とはご無沙汰していますが、今でもNHKの「名曲アルバム」というスポット番組は続いているのでしょうか。

クラシックの名曲のさわりの部分が、5分弱の音楽の流れの中に組み込まれており、その曲に縁の深い土地の美しい風景や史跡と共に、曲の生い立ちや時代背景がテロップで流されます。

視覚的効果に加え、曲への知的好奇心が満たされることにより、音楽がより印象深く感じられる、珠玉のような番組だと思っています。

 交通網が未発達な19世紀以前には、ドイツ・オーストリアの人々にとって、アルプスの彼方、陽光の燦々と降り注ぐ南国イタリア(=シトロンの花咲く所)は、未だ見ぬ憧れの地であり…

そんな内容のテロップが流されている時に耳にしたメロディーに、異国への旅に憧れていた当時40歳過ぎの私はいたく感動。

その部分の旋律と映像は、深く脳裏に焼き付いてしまいました。

NHK交響楽団の演奏によるものと記憶しています。

 曲から受けた感動を再現するためにCDを捜すのは、私のいつものパターンです。

が、この曲はCDの数も少なく、どの演奏を聴いても大同小異で、とても名曲とは思えません。

テロップを読んで掻き立てられた想像力に、偶々映像と音楽が合致したからこそ得られた感動だったのだろう、と考えていました。

 ある時、行きつけだったCDショップで、輸入盤の『シュトラウス一家のワルツ・ポルカ・マーチ集(6枚組)』を、格安な値段故に衝動買い。

偶々、その中に標題の曲が含まれていたので、さして期待もせず聴き始めましたが…。

 冒頭、ホルンと木管が奏する旋律は、憧れに満ちた素晴らしいもの。

瞬時に、懐かしい「名曲アルバム」の世界へとタイムスリップしました。思いがけない感動を伴いつつ、全曲を聴き終えました。

 映画のサントラ盤を聴いて、嘗て観た映画を懐かしく想い出した!≠ニいう体験はどなたもお持ちだと思います。

しかしこのディスクは演奏者が異なると、同じ曲でも同質の感動を得る事は先ず有り得ない!≠ニ考えていた私に、異なる演奏で、嘗て観た映像を想い起こす≠ニいう、常識を覆す希有な体験をさせてくれました。