大阪生まれの私にとっては、勿論初めての体験でもありますが、
それ以上に、雪に閉じ込められて陸の孤島となって、世間から隔絶されるのではないかとの恐怖心を覚えた体験でした。
電気・ガス・水道は正常に供給されており、今から思えば「何と大げさな!」と思えるのですが、
何の不自由もない都会に生まれ、育った人間の脆弱さが露呈されたのかとも思います。
反省の意味も込めて、記憶が生々しい間に、この体験を「放浪記」の欄に、メモしておこうと思いました。
【2月14日】
先週末と同じく、太平洋岸を発達した低気圧が通過するため、この日から明朝にかけて関東地方に降雪注意報が…。
長野県だから、日本海側の豪雪地帯と同じように思われがちですが、
冬の軽井沢は、東京と同じく晴れの日が多いのですが、関東平野に雪が降れば、こちらでもほぼ100%降雪に見舞われるというパターン!
念のため、別荘管理事務所の道路の雪掻きが遅くなることも想定して、翌々日分の食料品を買うために、スーパーMへ!
天気予報通り、雪はしんしんと降り続いていましたが、まさか…。
【2月15日(孤立1日目】】
朝、庭で用を足すために犬用の扉を出て行った愛犬が、直ぐに戻ってきました。
「もしかして大雪…」と、勝手口の扉を開けると、僅か一夜にして腰の高さを優に超える積雪が!
万が一南寄りの風が吹いて、軒下に吹き込んでいれば、戸を開けて外へ出ることすら出来なかったかもしれません。
とりあえずは、朝食までに愛犬が用を足すためのルート作りに取りかかります。
気が落ち着きませんので、朝食が終わると直ぐに、妻と共に家の前を通る町道へのアクセスを確保しようとしましたが…。
結局、昼過ぎまで降り続けた雪は、当地では未曾有の99cmと報道され、
午後遅くなっても、管理事務所の除雪車はやって来ません。
状況を把握するために電話を入れると、
「雪が深くて車が動けず、職員が出社できない」「普段の除雪車では埒が明かないので、重機を準備中!今日は、御辛抱願います」との、想像した通りの回答。
「この大雪じゃ、仕方ないわなぁ!」ということで、翌日道路が開通すればすぐにでも出られるように、二人で駐車場の雪掻きに大汗をかきました。
【2月16日(2日目)】
朝から風が強く、屋根に降り積もった雪が空中を舞っています。
1mにも及ぶ積雪で、屋根が壊れないかと心配する身にとっては、
少しでも屋根の雪が減ることは、多少とも不安を和らげてくれます。
Mの森別荘地に住むボランティア仲間のEさんから電話があり、お互いに似たような状況であることを確認。
「同病相哀れむ」仲間意識に安堵感を覚え、「そのうち、何とかなるでしょう!」と、笑いながら電話を切りましたが…。
午前中は、妻と共に昨日やり残した駐車場から町道へ出るルートの雪掻きに精を出しました。
しかし、午後になっても一向に除雪車が来る気配はありませんし、
下のバス通りも、除雪作業が行われている様な音も、聞こえてきません。
区内の拡声器を通して、「碓氷バイパスが通行止めで、数百台の車が立ち往生している」旨の広報が伝えられました。
「今まで、周囲の状況を知らせもしないで!」と、役場の余りの怠慢さに腹立たしさを覚えました。
午後遅くなって、管理事務所に状況を問い合わせると、「別荘に向かう道で、何台もの車が立ち往生しているため、除雪のための重機を向かわせることができない」とか。
広報から推した状況を考えると、納得せざるを得ませんでした…。
妻によると、我家の食糧は炭水化物中心に4〜5日は大丈夫とのこと。
一安心はしたものの、天気予報によると、週半ばには再び降雪の可能性ありとの情報を聴いて、
更なる積雪で屋根が崩壊することも含め、長期戦になりそうだとの不安が、現実味を帯びてきます。
長期にわたって孤立化する可能性も念頭に置いて、管理事務所任せでなく、自力で人家のあるところまでの最短ルートを確保しなければと、覚悟を決めました。
万が一を考えて不安を抱く私でしたが、
妻は、「贅沢言わずに我慢さえしてくれれば、一週間分のご飯くらいはあるから!」と、意外と落ち着いています。
この逞しさ!女の平均寿命が長い理由、何となくわかるような気がしました。
【2月17日(3日目)】
今日も冷え込みは厳しいのですが、朝からよく晴れた一日でした。
朝食を食べ終えると早速、妻は庭や駐車場周りの雪掻きを、
私は家の前を通る町道を120m、そこから左折して下の集落へ通じる200mほどの脱出ルートを作りにかかります。
降った当初と比べて溶けて重くなっている分、掘り進むことは容易ではありませんでしたが、
それでもこの日の作業は、全ルートの半分くらいまで掘り進むことができました。
夕方、管理事務所の担当者から電話があり、
「今、重機が別荘の入口まで来ています。上手くいけば今日中、遅くても明日の午前中には、我家からバス通りまで道が通じる」との嬉しい連絡に、私は単純に喜んだのですが、
妻は「除雪車が実際に来ないことには、信用できへん!」と、疑心暗鬼の様子。
案の定、暗くなってきても、周囲は森閑とした状態のまま…。
夕方、市街地に住むボランティア仲間のOさんから、「漸くルートが付いたのでスーパーに行ったが、生鮮食品やパンなどの棚は、空っぽの状態でした」
そんな内容のe-mailが届いており、
「今、車で動いても同じこと」と納得。
「遅くとも明日中には、何とか開通するだろう」と思いつつも、一抹の不安を抱きながら眠りに就きました。
【2月18日(4日目)】
この日も快晴でした!
Eさんから、「今朝、新聞が届いた。妻が中軽井沢まで歩いて買い物に出かけ、漸く生鮮食品を購入した。流通網も回復しつつあり、徐々に日常に戻りつつあるようだ」との旨のe-mail。
「うちの別荘は送れているなぁ」と嘆息して、管理事務所と連絡を取ると、
別荘地の入り口が吹き溜まりになっていて、昨日は重機が殆ど進めなかったとのこと。
Eさんの住む別荘地の復旧状況を知ってしまっているだけに、「本気で定住者のことを考えてくれているのか!」と、思わず声を荒げてしまいました。
「申し訳ないですが、とにかく歩行ルートを、大至急確保して、食料・灯油など、当面お困りのものを届けますので、今しばらくご辛抱下さい」との返答。
陸の孤島状態に陥って既に4日目、管理事務所を信じないわけではないのですが、
他力本願で状況は打破できるのを待つことに苛立たしさを感じて、
予定通り、今日中に下の集落までの最短距離(320m)での脱出ルートを仕上げることを決意。
昼過ぎ、管理事務所の若い男性3人が、(手押しの除雪機が故障したために)手作業で別荘入口から我家迄の1kmほどの歩行ルートを付けてくれました。
彼らは、休む間もなく別部隊に合流して、別荘地奥の定住者の住んでいるところまで、歩行ルートを確保しつつ、食料を届けに行くとのこと!
若者のパワーに感服しつつ、「奥の人たちにも、早くルートを確保してあげて!」と言うだけの、心の余裕も出てきました。
夕方には、自力で作った最短の脱出コースも漸く完成。
地元の方に、「道を掻いて下りて来られたのですか。大変でしたね!」とねぎらいの言葉をかけられ、孤立していた不安が一気に解消しました!
その一方で、既に車でスーパーまで買い物に出かけた人もいるとの話を聞くと、
つい我が別荘地の復旧の遅れに、町や管理事務所の対応の不味さに対する不満が噴出…。
それでもこの日の夜は、安堵感と、慣れない肉体労働による疲れもあり、ぐっすりと眠ることができました。
【2月19日(5日目)】
最低気温が氷点下10℃以下になるほど冷え込みましたが、快晴の一日。
朝食後すぐに、昨日管理事務所が雪掻きをして作ってくれた歩行路を歩いて、別荘入口の状況を確認に行きましたが、
車の通行可能な道幅が確保されているのは、入口から300mほど入ったところまで…。
除雪作業は、難航しているようです。
妻に状況を伝えると、「焦っても仕方ないやん!今週一杯ぐらいはお米もあるし、場合によっては、下の農家のAさんところへ出向いて、野菜を分けてもらうから。お米が無くなれば、うどんもスパゲティーも残ってるし!」と、泰然としています。
「アルコールも無くなるし、野菜と米だけでは満足感が…」などと欲ボケした考えの自分を、少し反省しました…。
昼を過ぎた頃、雪掻きの進捗状況を確認に別荘入口の方に歩いていくと、重機が我家の方に向かって来ました。
「Nさん、遅くあって済みませんでしたが、これからお宅まで道を通しますので!」
「やれやれ、助かった!」と思うと同時に、「別荘地の入口にあるからとは言え、どこよりも早く車が使えるわけですから、他の定住している人たちに済まない」という気持が湧いてきたことも事実です!
とりあえず生鮮食品を入手するために、車で一般道に出たのですが…。
片側一車線のバス通りは、漸く車一台分通れるだけに道幅しかなく、しかも退避する場所が殆ど見当たらないために、
対向車が来ると、延々とバックせざるを得ないような状況。
若い頃ならともかくも、歳のせいで状況判断が悪くなった今、こんな時に事故を起こすわけにはいきません。
間道で切り返しをして、そのまま自宅へと取って返しました。
そのことを、ボランティア仲間のEさんに状況報告すると、
氏の別荘地でも、たった今片側一車線が通ったばかりだとか!
結局、どこの別荘地も同じような状況に陥っていたのですね。
想定外の降雪量だったとは言え、町の幹線となるべき道路が、不通となって5日が経過しているにもかかわらずこの体たらく…。
昨日、管理事務所の人に思わず声を荒げてしまったことを、深く反省した次第でした。
「明日は、一番近いコンビニまで4km強の道を歩いて、買い出しに行こう」と考えた私は、
品揃えを確認するために、目的地のコンビニにのすぐ傍に住んでおられるボランティア仲間のKさんに電話を入れると、
「もし我が家まで出て来れるなら、ここからスーパーまでは車で行けるから、一緒に出かけましょう!」というありがたいお言葉!
漸く日常に戻れる安堵感で、どっと疲れが出て、TVの前のこたつに足を突っ込んだまま、ぐっすりと眠り込んでしまいました。
【2月20日(6日目)】
目を覚ますと足が棒のように突っ張って、筋肉痛もでてきています。
こんな状況では、とてもじゃないけどKさん宅までの4kmの雪道を、長靴をはいて往復することなど、覚束きません。
正直に理由を言えば、無理しても我家の近くまで車で来て下さるような方。
折角のご厚意を無にすることになり心苦しく思いましたが、
かと言って、我が別荘の近くの道路まで迎えに来て頂くには、昨日の体験から、Kさんのリスクが高すぎると思われましたので、
電話を入れて、「別荘の定住者で、雪道運転に習熟した方に運転してもらって、スーパーに出かけることになりました」と嘘をついて、お断わりしました。
Kさんご夫妻、ごめんなさいね!
ただ、Kさんへのお断りの理由も、100%嘘というわけではありません。
出来れば買い物に行きたいと思っていた私は、Kさんにお断りの電話を入れた後、
同じ別荘地に住むBさんに、「車が出せるようになったので、下まで降りてきて、ご一緒に買い物に行きませんか」と、お誘いしたのです…。
万が一、狭い道でバックせざるをえなくなった時に、的確に誘導して下さるパートナーとして…。
でも、1km以上ある下り坂を降り、再び荷物を持って登ることの困難さを感じられたのでしょう。
「今日中に、除雪が済むはずだから…」と、こちらの奥様も慌てず騒がず、泰然と話されていました。
ほんと、いざとなれば女性の方が肝が据わっていると、つくづく思いました!
道路状況が昨日と同じなら、潔く引き返すつもりで出発しましたが、
一夜明けた今朝は、昨日と同じく一車線分の道幅しかありませんが、
地区の方のご尽力で、所々に待避所が設けられていて、
対向車の姿が見えれば、そこに車を寄せることができ、安心して運転することができました。
スーパーに来ている人は、普段よりもはるかに少なく、市街地の道路状況も、まだまだ復興途上…。
ただ、品数は少なめですが、生鮮食料品も棚に並べられており、流通網も漸く回復してきたようです。
「陸の孤島」から脱出してからの顛末は、後日アップさせていただきます。