放 浪 記 (129)

30年ぶりの松本

2013.11.19


先日、ボランティアの仲間たちと一緒に、研修旅行と称して、30年ぶりに松本市を訪れました。

目的は、松本城周辺の町中をボランティア・ガイドの方に案内して頂くこと。

松本城のように、観光の目玉として案内手法がほぼ定型化された施設を見学するのではなく、

人々の生活基盤となってきた町中の魅力をどのように紹介されるのか、そのことについて深く考察することが建前なのですが…。

ただ、私にとってはそんなことは二の次でして、

嘗て過ごしたこの街の風情、行きつけのお店などが今も遺されているのか、そのことが最大の関心事でした!


サラリーマン時代、結婚して一年が経過したばかりの妻と一緒に当地に赴任し、6年余りを過ごした土地。

ここでは、幸い仕事の業績もほぼ順風満帆でしたし、

加えて、最後の1年は、我家の初代柴犬(雌)と巡り会うことができたお蔭で、

私の生涯でも、最も充実した楽しい日々を送ることができました。

そんなこともあって、松本市内の色んな場所には、公私にわたっての格別な、深い想い出が刻まれているのです。


駅前から松本城に至る道筋には、大型ショッピングセンターが建設され、昔の面影を見つけることはできませんでした。

会社のすぐ近くにあって、私と同年代のご夫婦で営んでおられた小さな喫茶店は、市街地化の波に飲み込まれ、今は町営の駐車場に…。

しかし、そのルートからはずれた町中の風情やお店は、概ね昔のままの姿で遺されていました。


休みの日に、夫婦でよくハンバーグカレーを食べに行ったカレー専門店の店構えは当時のまま。

今から思えば、あのハンバーグは市販の冷凍食品だったんですね。


妻のお気に入りだった、裏通りのパン屋さん。

ようやく見つけ出して、お土産に買って帰りましたが、懐かしい味は健在でした。


2年近く通っていて、常連のつもりでいた散髪屋。

閉店近くでしたが、三色の看板が回っていたので「まだ大丈夫!」と思って入ると、

客もいないのに、「7時までですので!」とにべもなく断られ、それを機会に縁を切ったこと、思い出しました。

こんな店が今も続いている事自体に不条理を感じましたが、

明かりがついた店内に人の姿がいないことを確認して、溜飲を下げました。

何という執念深さと、意地の悪さ!

他人様から嫌われる老人への道を、まっしぐらに進んでいるようで、「大いに反省!」です。


意外だったのは、私が松本を去った30年前には、既に駅前に移転されて、使われなくなっていた老舗デパートの建物が、

今も廃屋同然の姿で遺されていました。

文化遺産として取り壊せない事情でもあるのでしょうか…。


愛犬を連れてよく散歩に行った、市街地の北のはずれにあった県営陸上競技場。

30年経った今は、サイトウ・キネン・フェスティバルのメイン会場となる「キッセイホール」へと様変わりしていました。

しかし、バスの車窓から見る女鳥羽川沿いの風情は、当時の雰囲気そのままで、

楽しかった日々が突然蘇って来て、思わず目頭が熱くなってしまいました。


変化を遂げつつも、変わらない風情を遺そうとする松本に、あらためて愛着を覚えた、30年ぶりの松本への研修(?)旅行でした。