放 浪 記 (118)

サヴァリッシュの想い出

2013.2.26


N響桂冠名誉指揮者のW.サヴァリッシュさんが、89年の生涯を閉じられました。

氏は、私の中・高校生時代に、TVの映像を通じて最もしばしばその演奏に親しんだ指揮者でした。

当時、LPレコードでは、もっぱらトスカニーニやフルトヴェングラーといった強烈な個性を有する指揮者の演奏ばかりを聴いていましたが、

TVを通して聴くサヴァリッシュのベートーヴェンやブラームスの演奏は、鳥肌が立つようなサプライズこそ滅多にありませんでしたが、

噛んで含めるような説得力のある演奏に次第に惹き込まれていき、

全てを聴き終わった後には、度々静かな満足感に満たされていたことを記憶しています。

学者のように知的で穏やかな表情を浮かべつつ、時折放つ鋭い眼光…!

私にとっては、カラヤン以上に絵になる指揮姿とも映っていました。


氏の指揮姿を思い浮かべる度に、今も時折蘇ってくる印象深い演奏が二つあります。

一つは、高校生の頃に聴いたN響とのブラームスの第1交響曲の終楽章!

ホルンが朗々とした旋律を奏で、それに続いて弦が「歓喜の歌」に似た有名な主題を奏する部分。

あの瞬間の,TVに映し出された氏の神々しいまでの立ち姿と、

静謐さの中から生み出される、穏やかな喜びに溢れた音楽に陶然としたこと、今も忘れられません。


もう一つは、10数年前のことかと思いますが、

TVで放映されていた、クリーブランド管弦楽団を指揮してのR.シュトラウスの「英雄の生涯」での、「英雄の業績」以降の演奏!

穏やかな表情で自らの古を振り返るように淡々と指揮する姿の美しさと、

一抹の寂しさを感じさせつつも、充足感に溢れた音楽のえも言われぬ美しさに、

「自分も、このように人生を振り返ることが出来たら!」と感動したこと、忘れられない想い出です。


氏の想い出は、TV映像を抜きに語ることはできませんが、

それでもこの文章をアップし終わったら、在りし日の氏を偲んで、

R.シュトラウスの管弦楽曲の幾つかをCDでじっくりと聴きたいと思います。