20世紀前半を代表した大指揮者トスカニーニ(1867-1957)の演奏をスピーカーの前で聴くのは、
愛聴盤のレスピーギ「ローマ三部作」を除けば、殆どがほぼ半世紀ぶりになると思います…。
私が中学生だったか高校に入学した頃だったか?(1960年代の前半)、
NHK-FM放送で、音楽評論家村田武雄さんの解説による「トスカニーニ・アワー」という番組が放送されていました。
アメリカNBC放送から提供されたテープを基に編纂されたこの番組は、
この大指揮者が振ったベートーヴェン・ブラームスに代表される大作曲家の作品から、
アンコールで演奏されていたのであろうポピュラーな小品、
果てはスーザ作曲の「星条旗よ、永遠なれ」などの、幅広いレパートリーの作品を放送…、
スピーカーの前に坐り込んで、貪るように聴き入った記憶があります。
前述したレスピーギを始めとして、
ムソルグスキー「展覧会の絵」、
ブラームス「交響曲第1番」、
メンデルスゾーン「交響曲第4番“イタリア”」、
ショスタコーヴィチ「交響曲第7番“レニングラード”」など、
部分的な記憶しか残っていませんが、その時の鮮烈な感動は、今でも心に刻まれています。
中でもベートーヴェンの「運命」や「第9」は、少ない小遣いを数ヶ月分貯めてLPを購入、
盤面が擦り切れるほどに、何度も聴いたものでしたが、
とりわけ「第9」の第1楽章と終楽章は、いつ聴いても曲の進行に伴い、ワクワク・ドキドキ感を覚えたものでした。
そんな大恩人だったはずのトスカニーニですが、時代の波にのまれて、間もなくフルトヴェングラーへと宗旨変え!
高校2〜3年生の頃までには、きっぱりと縁を切りました。
爾来、録音の古さもあって、我家のCD棚には「ローマ三部作」「運命・田園」の2枚のみ…。
ところが先日、ふと思いついて、今まで一度として聴こうとも思わなかった「田園」をかけたところ…。
瑞々しく鮮烈な抒情を湛えつつ、熱気に溢れた迫力のある演奏に感動したこともありますが、
「楽譜通りに、インテンポを貫く指揮者」と評され、私もそう信じ込んでいたのですが…。
ところが、そんなイメージを覆すかのように、随所でテンポjの揺れを感じると同時に、
その揺れは、音楽をより美しく、より劇的に、感動的に表現するための必然的なものであるということを実感したのです。
聴き慣れたゆえに、最近は退屈感を覚えるようになったこの曲でしたが、
次第に演奏に惹き込まれていき、耳から鱗が落ちたような新鮮な感動を覚えつつ、全曲を聴き終えました。
録音の古さを覚悟の上で、「トスカニーニ・コンプリートRCAコレクション」(全84CD)を買おうと決意したのは、こんな経緯からです。
それに、1CDあたり100円ちょっとの価格だったことも、正直ありますが…。
早速トレイに載せたのが、じつに50年ぶりに聴く懐かしい第9!
曲の進行とともに、ワクワク感が増していきます。
「田園」同様、正直言って「今更、第9なんて…」と感じていたのですが、
トスカニーニの演奏は、そんなマンネリズムを完全に払拭してくれました!
これからどんな発見があるのか、期待が膨らむ全集です!