放 浪 記 (101)

吉 田 秀 和 讃

2012.5.28 


音楽評論家の吉田秀和氏がなくなったというニュースを、今朝新聞で知りました。

享年98歳とか、天寿を全うされたと申し上げて、差し支えないでしょう。


氏の音楽評論に親しみ始めたのは、確か大学生の頃からだったと思います。

朝日新聞の文化欄に掲載されていた氏の若き日の音楽評論は、

専門用語が駆使されたそれとは一線を画した、

素人の私にでも理解できる文章で書かれていました。

その論調は、過剰に熱くならず、

幅広さと懐の深さを併せ持った教養が滲み出たもの!

氏独特の語り口にも惹かれて、長年にわたり、月に一度の掲載を心待ちにしたものでした。


その後、『レコード藝術』誌上での連載記事などにも接しましたが、

「たまたま聴いた演奏についての随想」といった趣の文章を目にするにつれ、

自然体で音楽に接しておられるのであろう姿に、

自分も、氏のような態度で音楽を楽しみたいと、憧れたものでした!。


氏の論評を読んで、未聴の演奏や未知の作品への興味がしばしば掻き立てられたものでしたが、

それ以上に、「吉田さんが受け止められたのと同質の感動を、共有したい!」

そんな願望が、心のどこかに芽生えていたのだと、訃報を知った今、初めて気付きました。


今日は氏を偲んで、

40年前に朝日新聞紙上で高く評価されていた、カラヤン/BPOによる、R.シュトラウスの『オーボエ協奏曲』と、

レコード藝術誌上で「北海の曇天の海を描いた…」と評された文章が印象に残る、

C.ディヴィス/ボストン響による、ドビュッシーの『海』を聴いてみたいと思います。