「正直言うて、これまでに数え切れんほど聴いてるし…。よほどの演奏でないと、なかなかその気にはなれんわ…。お前、聴きたいんか!」と私…。
「別に…、今更ね!」と妻…。
「否定はしてるけど、こういう言い方をするのは、大概本人がその気になっている時だろう!」
最近になって、ようやく妻の扱い方をマスターしつつある私は、
さりげなくオーディオ・ルームに入って、ガーディナー指揮する第9を、第1楽章から聴き始めたのですが…。
曲が始まると、妻は元放浪犬で、最近は徐々に室内犬化しつつある愛犬ソラを連れて、さっさと散歩に出かけてしまいました…。
妻よりも犬の方が、よほど扱いやすいように、私は思うのです…。
ガーディナー盤を選んだのは、
音楽評論家の諸石好生氏が、「トスカニーニ盤のように、緊張感漲る演奏」と評価していた記憶が、漠然と残っていたからです。
氏が触れられたトスカニーニ/NBC交響楽団の演奏は、
50年前に私が初めて買った第9のレコード。
有名なフルトヴェングラー/バイロイト祝祭盤に乗り換えるまでは、ただならぬ緊張感を湛え、随所にインスピレーションに満ちた演奏に心酔して、何度も繰り返し聴いていました。
「あの頃のスリリングなワクワク感が再現できれば!」との淡い期待を抱いて、聴き始めたのです。
きびきびとしたテンポで、随所にインスピレーションが感じられる良い演奏だと思いましたが、やはりトスカニーニ盤とは違います。
しかし終楽章に入り、モンテヴェルディ合唱団の素晴らしさに、目から鱗の思いが!
ガーヂナーの薫陶を受け、多くの宗教曲を演奏してきた実績が活かされてか、
少数精鋭のメンバーによる各声部の音色は見事に統率され、
神聖な響きを醸しながらも、同時に力感にも溢れており、
終楽章についてのみ言えば、「オーケストラ伴奏付きの合唱曲」かと思えるほどに、シラーの詩の存在の大きさを初めて認識できた演奏でした。
「どうやった!」と、いつの間に部屋に入っていたのか、妻の声が…。
「合唱が素晴らしかった!やっぱり第9は凄い曲やな。再認識したわ!」
「そら良かったね!」と、したり顔の妻。
妻の言うことを素直に聞いたお蔭で、平穏な正月を迎えられそうです。