放 浪 記 (76)

干天の慈雨

2011.3.19 


3月11日の東北・関東大震災による被災地の実情が判明するにつれ、

亡くなった人や行方不明者の数が増えていきます。

放射能漏れを食い止めようと現場に残る福島原発の作業員の方々や、

自衛隊員や消防隊員の方々の命がけの働きぶりを報道で見聞きしながら、

こんな時にのうのうと音楽を聴いていて良いのかとも思い、

オーディオの電源をオンにすることができませんでした。


しかし、私自身がだんだんと気が滅入ってきたために、

昨日からは節電のために暖房は点けずに、厚手の服を着こんで、

一日に1時間だけ音楽を聴くことにしました。

被災された方々には申し訳ないと思いつつも、

精神的な飢えを満たすために音楽を聴ける喜びに、素直に感謝しています…。


久しぶりに聴く音楽は、干天の慈雨のように、心の奥深く沁み入ってきます。

今日聴いた1曲は、バッハの無伴奏チェロ組曲第2番、

ピエール・フルニエの演奏(1960年録音)です。

とりわけ第4曲「サラバンド」が開始された時には、

16年前の阪神・淡路大震災後のコンサートで、

アンコール曲を演奏するロストロポーヴィッチが、

「犠牲になられた、全ての人々に捧げます」と言って奏でた演奏が、鮮明に脳裏に蘇ってきました。

この時の演奏は、悲しみの中にも、亡くなられた方々の魂の安寧を祈る切々たるメッセージが湛えられた、本当に特別なものでした。


そして今日聴いたフルニエの演奏からは、

気高い尊厳を湛えた、切々たる祈りの音楽が鳴り響くのを感じ、目頭が熱くなってしまいました。

続く第5曲「メヌエット」!

毅然として、一歩づつ踏みしめるように刻まれるリズムの力強さは、

悲しみを乗り越えて困難に立ち向かう人々を鼓舞するような、誠に真摯さに溢れた音楽!


被災された皆さまが、少しでも早く立ち上がれるような状況を整備すべく、何かお役に立ちたいとは思うのですが…

私達夫婦にできることは、年金を取り崩しながら、細く長く義援金に協力することくらいです…。