放 浪 記 (56)

お気に入りの蕎麦屋

2010.4.9 


「郷に入っては郷に従う」という言葉があります。

新しい土地に来たら、その土地の風俗・習慣に従うのが処世の法であるとの、昔の人たちの教訓はもっともだと思いつつも…。


当地に住んで、まる8年が過ぎました。

人々は素朴で几帳面な方が多く、個人的には信頼を深め、親しくさせていただいている方も増えてきました…。

ところがこれがビジネスとなると、馴れ合いに浸り切り、ご自分達の都合で約束の日時を平気で反故にする地元業者のご都合主義的な習慣には、未だに馴染めません。

約束の時間になっても来ず、連絡もないために痺れを切らせて電話すると、「急用ができて、別な現場に行っている」といった話は、一度や二度のことではありません。

結局、自分たちの手に負えない作業を依頼する時には、些細なことでも県境を越えた業者に頼るようになってしまいました。

本当は、こんなことで目くじらを立てるようでは、先達の教えに背くことになるのでしょうが…。


でも食に関しては、土地の産物が気候風土に合致して美味しくいただけることには感謝!

例えば、夜間には連日氷点下に下がる気候のもとで低温熟成されたリンゴの引き締まった甘酸っぱさの格別な美味しさは、当地に住んでいるからこそ味わえるもの。

地元の農家の方から頂く採り立ての白菜やキャベツの瑞々しい美味しさは、生産地に住んでいるからこその恵みだろうと思います。


ただ蕎麦だけは、なかなか馴染めませんでした。

雑誌や知人から美味しいと紹介されている店を訪れ、中には「これは!」と絶賛できるような味に稀に巡り会いましたが、

それでも汁が濃過ぎること(つけ過ぎるからだとよく言われますが)、ボリュームのなさ、価格の高さゆえに満足した例はなく、再度訪れたことのある店は、殆どありません。

麺類は大衆的な食材であり、高級品という認識を持たない私達夫婦にとっては、

当地の蕎麦はコストパフォーマンスの低い、単なる嗜好品としか思えませんでした。


ところが、つい1年ほど前に初めて入った比較的新しいお店で、初めて味・ボリューム・価格面で満足のできる、コストパフォーマンスの高さに感激!

「当地には珍しく、我々大阪人にも満足できるお店だね」と言いながら、以来夫婦で時々訪れるようになりました。

客観的に申して、蕎麦の味の点では、これまで食べた中でナンバー・ワンではありませんが、麺の風味・腰・喉越しなどは、この界隈の有名店と比べても、一級品以上であることは間違いありません。

ただ、汁が私達の嗜好に合うことと、季節の山菜とエビをあしらったミニ天丼と盛り蕎麦がセットになった『馬子唄セット』という商品が、価格がリーズナブルで、ボリューム的にも満足でき、気に入っているのです。


先日昼食に訪れた時、偶々お客さんが少なかったために、奥さんと初めて長話をする機会があったのですが、

驚いたことに、大阪府の隣り合わせの市に住んでいたことが判りました。

嗜好や価値観というものは、住む土地によって形成され、根強く残るものだと、つくづく思った次第です。