放 浪 記 (41)

ロドリーゴの自作自演集

2009.11.10 


20世紀のスペインが生んだ作曲家、ホアキン・ロドリーゴ(1901〜1999)の名を聞いて、ほとんどの方は、ギターと管弦楽のための『アランフェス協奏曲』や『ある貴紳のための幻想曲』を思い浮かべられると思います。

私もスペイン音楽には疎く、これら以外に曲名だけでも知っているロドリーゴの作品と言えば、4台のギターと管弦楽のための『アンダルシア幻想曲』くらい…。

そのために、ロドリーゴ自身もギターの名手だとばかり思い込んでいた私は、ジャケット写真には、ピアノを演奏する彼の姿が掲載されているにも関わらず、ロドリーゴの自作自演集とは、即ちギター作品集だとばかり思い込んでいました…。

ところがWikipediaによると、彼はピアニストだそうで、ギターは弾かないのですね。目から鱗でした!


ピアニストであるロドリーゴが演奏する自作自演集(1960年録音)を初めて聴いた印象は、ミスタッチが多く、お世辞にも美しい演奏とは言えません。

しかしながら、彼の演奏からは、馥郁としたスペイン情緒が色濃く立ち昇っており、未だ見ぬ異国への憧れを抱いてしまいました…。

それは、高名な作曲家の自作自演集だからという理由で、特別の感慨を抱きながら聴いたからではなく、

曲に込められた思いが、率直に伝わってくる演奏だからこそのものでした。


ロドリーゴは、フランコ政権による過酷で厳格な統制下にある中で、ピカソやカザルスのように反体制的な主張を芸術に反映させることはなく、

むしろ人々が憧れる美しい観光地に相応しい、民族色や色彩感にあふれた、抒情豊かな音楽を生み出し続けた芸術家です。

中でも『4つのスペイン舞曲』からの“バレンシア舞曲”や“カスティーリャ王女の祈り”や『朱色の塔の影で』の、豊かな抒情性…

『カステリア風ソナタ第4番』の、淡々と人生を振り返るような深い味わい…

『別れのソナタ(恩師ポール・デュカスの墓のための讃歌)』での、降りしきる氷雨の中、思い出を振り返るような趣…

自作自演が、常にベストなものだとは決して思いませんが、この演奏は聴いて良かったと思いますし、作曲家ロドリーゴへの認識を新たにしてくれた演奏でした!