放 浪 記 (40)

無意識のうちに…

2009.11.7 


昨日、ある音楽関係者の方のブログで、R.シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』を例に挙げて、録音に携わる人や我々一般愛好家の志向が、音響に偏っていることに対する危惧感を述べられていました。

その方のご指摘が、あまりに私にぴったりと当てはまっていたために、あえて採り上げさせていただきました…。


この曲の冒頭部が、1968年に製作・上演された映画『2001年宇宙の旅』に使われたことによって、多くの人々に知られることになり、有名曲の仲間入りを果たしたと申し上げても過言ではないでしょう。

ご承知のように、最弱音で奏されるオルガン・コントラファゴット・コントラバスによる重低音のオルゲンプンクト(保持音)で開始される序奏部は、

トランペットで奏されるおなじみの旋律とそれに続くティンパニーの強打、

そして金管楽器奏するffへと壮麗に盛り上がる、演出効果満点の音楽です。


偶然か意図的にかは知りませんが、映画の公開と同じような時期に、ズービン・メータ指揮するロスアンジェルス・フィルの、HiーFi録音を標榜したLPが発売され、

クラシック音楽ファンのみならず、オーディオ愛好家にも広く知られる曲となりました。

レコード藝術誌でも、そのオーディオ的な効果も含めた演奏の素晴らしさが大いに話題になり、私もこの演奏で、初めて全曲を通して聴きました。

これをきっかけに、R.シュトラウスやストラヴィンスキーの管弦楽曲の優秀録音が相次いで発売され、レコード藝術誌の演奏評価でも、軒並み推薦マークが付けられたために、

私はいつの間にか、彼らの音楽は、最新技術を駆使した優秀な録音で聴かなければ、曲の本質を聴き取ることができないと、半ば常識のように信じ込んでいたようです。


ところが昨日、この方のブログを読んだことがきっかけで、録音が1971年と、今としてはやや古いとの理由で、長らく聴こうともしなかった、ルドルフ・ケンペ指揮するシュターツ・カペレ・ドレスデンの演奏を、初めて聴いたのです。

私には、ニーチェの哲学を理解する頭脳はありませんが、

ケンペの演奏を聴くと、アポロ的とかディオニソス的とかいう言葉の概念が、なんとなく髣髴出来るから不思議です!

少なくとも、カラヤンの演奏からは、一度として感じたことのないことでした。

録音の良否だけでディスクの優劣を判断することはできないことを十分に知りつつも、無意識のうちにこんな思い込みをしていたのですね!