放 浪 記 (34)

ラローチャの訃報

2009.10.1 


今朝の新聞で、アリシア・デ・ラローチャの訃報を知り、ちょっと驚きました。

と言いますのは、つい一週間ほど前に、CDで彼女の演奏するバッハのイタリア協奏曲を聴いて、「こんなバッハ演奏も可能なのだ!」と驚き、このピアニストの演奏を、もう少し聴いてみたいと思ったばかりだったのです。

1923年にスペインのバルセロナに生まれた彼女は、自国の作曲家であるアルベニス、グラナドス、ファリャ、モンポウを得意とし、

モーツァルト、シューベルト、ショパン、シューマン等の演奏についても高い評価を受けていた、20世紀後半を代表する女性ピアニストでした。

ただ、彼女が得意とするスペイン物は、これまで積極的に聴く機会も少なく、

ロマン派の有名作曲家の作品には、他にも個性的な演奏が数多く存在するために、それほど関心を抱くことがなかったピアニストでした。


一週間ほど前に、「たまにはラローチャの演奏でも…」と、軽い気持ちで聴き始めたバッハでしたが…。

第1曲アレグロは、音色は美しく明快ですが、フレージングが今まで聴いたバッハとは異なっていて、「これがスペイン的なもの?それともラローチャの癖?」程度の印象しかなかったのです…。

ところが、第2曲のアンダンテ!

弔いの鐘を思わせるような左手の打鍵と、

透明感を徹底して追求したような右手が奏でる旋律の美しさが醸す音楽は、

まるで高貴な人の死を悼むような、悲しみに満ちた音楽と感じられたのです。

そして、「この演奏こそが、曲の核心をついたものではないか!」という、普遍性すら感じた演奏でした。


そんな印象が冷めやらぬ中に届いたラローチャ逝去のニュースでした。

あらためて聴き直したイタリア協奏曲からは、一週間前と同様な感慨を抱きました。

青柳いずみこさんのブログを拝読すると、ラローチャというピアニストは、大変に偉大な常識人だったとのこと。

「もっと以前から、彼女の真価を聴き取れていれば…」と思いつつ、謹んでお悔やみを申し上げます。