放 浪 記 (32)

TVに出ました!

2009.9.20 


とは言っても、妻や私ではなく、我家の玄関と駐車場が、2時間ドラマの数シーンに使われたというだけのことなのですが…。

3年前の今頃の話です。

家の前の道路を、朝から同じ車が、周囲の様子を窺うように行ったり来たりしていました。

「泥棒が下見をしてるのかも…」と、内心穏やかではありません。

そうこうするうちに、我が家の玄関のチャイムが鳴って、年齢の割には、お調子者らしき風情のおっさんが…。

出された名刺を見ると、某TV局のアシスタント・プロデューサー。

「“信濃のコロンボ”という2時間ドラマをご存知でしょうか」

「存じていますが…」と私。

「そのロケに、お宅の門から玄関までのアプローチと、駐車場を使わせていただきたいのです」とアシスタント・プロデューサー氏。

「折角自宅がTVに映る機会を、むざむざ断わるはずなどない」という自信に満ちた口調で、日時・ロケのスケジュール等を説明した上で、

「ご迷惑をおかけすることは万が一にもないとは思いますが、念のためにロケ時間帯には、どなたかがご在宅頂きたいのですが…」

なるほど、後日クレームが付けられることのないように、家人を立ち会わせるのだろうと納得し、その場で了承させていただきました。

我が家も、TVのロケに使いたいと言われるような雰囲気のある家なのかと思うと、まんざら悪い気はしませんでした…。


ロケ当日は、予定時間の30分前から5〜6台の車が到着し、20人くらいのスタッフが…。結構大がかりなものでした。

「今日はお世話になります。主演の中村梅雀さんと、ツーショットして頂いてもよろしいですよ!」

私たち夫婦は、特にファンでもなかったので、折角のお言葉を全く無視しましたが、「是非に!」とお願いするのが、俳優さんに対する礼儀だったのでしょうか?


いざ、ロケが開始される直前になって、スタッフの一人が、「すみません、トイレをお借りしたいのですが…」。そしてその後も続々と…。

なるほど、家の者に居て欲しいと言われた理由が、よーく理解できました。


「ご主人!犬の声がうるさいのですが、ご配慮願えませんか」

「下見に来られた時も、大きな声で吠えていたでしょうに…。分かりました、私が中に入って、静かにさせます。それでも鳴いたらごめんなさいね!」


「お部屋にいらっしゃるご主人!犬ともどもカメラに映ってしまいますので、窓から離れて頂けますか」

「失礼しました、ここなら大丈夫だと思っていましたので」

「あわよくば…」との魂胆は、敢え無く粉砕されました。


後日TV放映された第13集『盲目のピアニスト』は、なぜかどの場面のバックにも、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の哀愁溢れるメロディーが流れていました?…。

ただ、「記念に!」と頂戴した台本の、我が家を使って撮影した場面のト書きには、“古ぼけた別荘”“朽ち果てた表札”と書かれていました。

いくらなんでも、あんまりじゃありませんか…!


あれから3年が経過し、我が家もますます古びて、あちこちにほころびが目立つようになりました。

この分だと、次回は“幽霊屋敷”の設定で登場するかもしれません。

そして、今回執拗なまでにラフマニノフを使われた方が、再び音楽を担当されたら、幽霊登場の場面では、BGMとして『運命』の冒頭部が使われるかも…。

その折には、黒木瞳さんクラスの美女の主演で、是非!

言われるまでもなく、こちらからツーショットをお願いしますので!


滅多にできない、楽しい体験をさせていただけたことに、感謝しています。