放 浪 記 (22)

感性のギャップ

2009.6.29 


サン=サーンスのオルガン曲に、『ブルターニュの古謡による3つの狂詩曲』という作品があります。

その名の通り、フランスの北西部ブルターニュ地方に古くから伝わる民謡を素材として、作曲されたものらしいのですが…。

この第3曲を初めて聴いた時、すぐにスメタナの交響詩『モルダウ』の主題に、まさに瓜二つだと確信しました。

学生の頃は、よく似た曲に巡り会うたびに、「BはAの模倣じゃないか」などと、友人同士で知識を披露しあったものでした。

その頃と同じように、少々誇らしげな気持で、「何かの曲に似てへんか!」と言いながら妻に聴かせたのですが、

「さあ?わからへんわ…」と妻。

「モルダウと、そっくりやと思わへんか」と私。

「モルダウって、川の流れをイメージさせる動きのある旋律やろ。今聴いたのは、祈りみたいで、それがないように思うけど…。私には、ようわからへん」

真っ向から否定しょうものなら、機嫌を損ねると感じて、遠慮がちに言ったのでしょうが、私にとっては、「違う」と断定されたようなもの。

少し、ムカッとはしたのですが、

ただ、妻は子供の頃と、30〜40歳代にかけての10数年間、ピアノを習っていましたので、腹立たしくは思いつつも、その感性を無視することもできません。

ラ・シ・ド・レ・ミ・ミ・ミー・ファー・ファ・ファ・ミーーー
レ・レ・レー・ドー・ドー・シー・シー・ラーーー

狂詩曲の第3曲は、冒頭がこういった感じの曲で、一音階ずつ上がり下がっていく点はモルダウと同じであるため、

私には「そっくり!」と感じられたのですが、

そもそも調性が全く異なっていますし、モルダウでは、川の流れを表わすように、主題は抑揚をつけて演奏されますので、

妻にはとても似た曲だと思えないのでしょう。

夫婦とも音楽が好きなために、

「同じご趣味でよろしいですね。奥様のピアノをご主人が聴かれたり、ご一緒にCDを楽しまれたりしておられるのでしょう」と、うらやましがられますが…

こんな例一つをとっても、お互いの感性にギャップがあるために、

妻は「あんたの前では弾くのは嫌や!」と、私の存在を煙たがりますので

音楽はお互い別々に楽しんでいるのが現状なのです。