放 浪 記 (22)

「1Q84」が止まらない

2009.6.26 


先日の朝日新聞の社会面に、このような見出しで、純文学としては前例のない、発売から3週間余りで1、2巻合わせて145万部が刷られるという、驚異的な勢いで販売数を伸ばすこの小説の、人気の理由が分析されていました…。

どんな内容の小説かも分からず、勿論世間的評価などない状態で、なぜこんなに評判を呼んで、売れるのか?

『世界のムラカミ』という、既に築きあげられたブランド性に加え、

イスラエル賞受賞時のスピーチの話題性と、

その直後のタイミングで、敢えて内容を明かさずに、『最新長編小説 初夏刊行決定』の広告を出して、読者の飢餓感をあおった出版社の巧みな戦術。

発売前に重版が決まり、発売10数日でミリオンセラー達成の報道が一斉に報じられ、買いが買いを読んだ!

おおむねこういったところが、主たる論旨だったと記憶しています。

ところで、普通、新製品が発売されて、広く流通するに至るまでには、以下のような消費者層の壁をクリアーしていくと、言われています。

1:商品の新規性に価値観を持つ消費者によって、購入される。
  ただ、この商品情報が一般消費者に流されることは、皆無に等しい。

2:独自に商品の価値(有用性・用途・対価格等)が判断ができ、
  かつ、他人に先んじて使いたい人によって購入される。
  この人達から、主として口コミによって、商品に関する情報が発せられる。 

3:2から発せられた情報によって、多くの消費者がその商品の存在を意識し、
  消費意欲に火が点けられる。

この2から3の間には、大きな壁があると言われています。

2に属する消費者には、「価値のあるものを、他人に先んじて…」という動機が存在するのですが、

3に属する消費者(大多数がこれに該当します)にとっては、「多くの人に使われている」という安心感こそが、購入に踏み切る決定的な動機付けとなるからです。

善し悪しは別として、こういった自制心の存在が、ある意味健全な消費を育んできたのだろうと思うのですが…。

ところが、今回の『1Q84』ブームは、1、2、3の消費者層が、多分同時に、同一の反応していると思われます。

我々団塊世代の人間は、学園紛争時には、価値観の多様性に戸惑い、それぞれに悩みを抱いていました。

その一方で、今回のような雪崩現象が生ずるたびに、世の中が戦争に向かっていくような、そんな危惧を抱く人も、少なくはありません。

我々と同じ団塊世代の村上春樹氏…

今巻き起こっているブームに、最も戸惑い、そして最も心配しているのは、彼自身かも知れません…。