放 浪 記 (21)

初めて村上春樹を読む

2009.6.20 


61年の人生で様々な人と出会い、その道に長けた方とお話しする機会にも数多く恵まれましたが、マスコミで取り上げられ、誰でも名前くらいは知っているような方とお話しする機会は、一度もありませんでした。

そんな中で、村上春樹ほど自分に身近な存在であるような錯覚を抱く有名人は、他にはおりません。

同じ団塊の世代であることに加えて、私の大学時代の友人や嘗ての職場仲間の数人が、彼とは高校の同窓生であって、当時の彼のエピソードを語ることができるという、ただそれだけの理由で…。

しかし “おしゃれ”“かっこいい”“ブランド好き”“若い人や女性に人気が高い”といったイメージから、大よそ感性の違う異次元の人物だろうと思い込んだり…

『海辺のカフカ』で登場人物に語らせているという、シューベルトのピアノソナタニ長調冒頭についての抜粋された文章を読んで、印象を過剰にデフォルメして表現する人だと感じたり…

自分の感性とはおおよそかけ離れた存在で、多分好きにはなれないだろうと思い、作品を読んだことは一度もありませんでした。

国内だけにとどまらず、世界で最も人気のある日本人作家であるという評価は、以前から聞いていましたし、

それに、今年に入ってエルサレム賞受賞式での発言や、発売前から上下巻で100万部を超える予約が殺到したという『1Q84』の話題性もあり、

「どんな作品でもよいから、読まないことには…」との妻の一言にも促されて(実は妻も読んだことがありませんでした)、『東京奇譚集』『神の子どもたちはみな踊る』という短編集2冊と、『アンダ―グランド』を購入しました。

『偶然の旅人』では、彼も音楽愛好家として同じような夢を抱いていたのかと、同世代の親しみを感じたり、

『どこであれそれが見つかりそうな場所で』では、謎解きを思わせるようなストーリーの展開に夢中で読み進んだものの、解決のあっけなさに、思わず「金返せ!」と文句の一つも言いたくなるような、鮮やかな筆致に驚嘆したり!!

それと、彼の作品中には、我々の世代が(多分)共通して興味を抱いたニーチェやドストエフスキーの思想が、何の説明が加えられることもなく、言葉としてさりげなく登場し、すぐに姿を消してしまいますが、

私なんかは、「一体何のつもり?」と感じてしまうのですが、そういったさりげなさが、女性や若い人たちに、感覚的に嫌味なく受け容れられる要因かなとも感じました。

いずれにせよ、多少の違和感を抱きますが、小説を面白く読ませてくれますし、代表作を読んでからでも、いずれまた感想を書かせていただくつもりです。