放 浪 記 (19)

山頭火の心境

2009.5(8) 


ここ数日、終日雨がしとしと降り続いています。こんな天候が続くと、いつも思い浮かんでくる句があります。

  山あれば山を観る

  雨の日は雨を聴く

  春夏秋冬

  あしたもよろし

  ゆふべもよろし

7年前に当地に居を移した時、大阪でお世話になった方から、「きっと、こんな大らかな心境でお過ごしなのでしょうね」というお手紙に添えられていた、種田山頭火の句です。

実は私、都会に住んでいた頃は、田舎暮らしをすれば自ずと自然環境に順応できるものと、高を括っていました。

ところが、いざ人の手が殆ど加えられていない山の中で暮らし始めてみると…。

これまでは周囲に建造物があるという虚構の安堵感から、自分たちの住む地域に限って被害を受けるなどとは殆んど考えもしませんでしたが、

自然の真っただ中の一軒家に住んでいると、雨が少し強くなったり長引くと、あるいは風が強まってくると、何が起こっても不思議でないような感覚を抱きます。

天気が好い日は、今の時期ですと、午前3時半頃になると鳴き始めるホトトギスの声で、一日が始まります。

夢うつつの中で鳥の声を聴きながら、「もう少しだけ…」と、夜明けまでの惰眠を貪ることができる贅沢な心境は、可否はともかくとして、「今日はあれをやろう」「これもやってみよう」という、幅広い活動意欲の裏返しでもあります。

ところが、夢うつつの中に雨の音が聞こえると、旺盛だったはずの意欲は消失し、今日一日の活動が滞ってしまう予感が…。

都会の生活から未だ抜けきれない私が、山頭火の心境に到達出来るのは、一体いつのことでしょうか。