その時のフリーの演技でメインに使われたのが、ラヴェル作曲のバレー音楽『ダフニスとクロエ』。
演技前半に使用された第3幕“夜明け”の音楽と、16歳の高校生のあどけない表情と少し大人っぽく感じられたのびやかな肢体とが、
そして後半使われた第3幕フィナーレの“全員の踊り”と、高難度の技を次々と成功させる彼女の躍動感とが、
見事なまでに調和して観衆の興奮をさらに高め、大歓声で曲が殆んど聴き取れないほどの熱狂の中、演技が終了しました。
名曲『ダフニスとクロエ』は、この日の彼女のためにラヴェルが書き下ろしたのではないか、そう思えるほどに感動したものでした。
私はラヴェルの作品の中でも、それ以前からこの曲を最も好んでいました。
とりわけ“夜明け”の日の出を髣髴させる清々しさは、私の知る全ての曲の中でも最高の描写音楽だと思います。
“全員の踊り”での高揚感も、この曲の聴きどころとして、様々な演奏で楽しんできました。
しかしこの体験の後は、それまでの演奏では満足できなくなって、
“夜明け”の音楽には、清々しさだけではなく、たった今生命が誕生したかのような喜ばしさを、
“全員の踊り”には、人々を興奮の坩堝に巻き込むような更なる熱狂を、求めるようになりました。
言い換えれば、TVでの観戦ではありましたが、視覚・聴覚から得たライヴの白熱した感動を、そっくりそのままこの曲に求めるようになったのです。
今日、ミュンシュ/パリ管弦楽団の演奏で第2組曲を聴いた時、本当に久しぶりにこの曲に感動することができました。
感動的な夜明け!湧きあがる興奮!
「あの時の演奏は、このミュンシュ盤ではなかったか」、ふとそんなことを考えてしまいました。
素晴らしく感動的な演奏で、今後私の愛聴盤になりそうです。