放 浪 記 (16)

無言館

2009.5(5) 


ラジオのニュースによると、今朝の軽井沢は、最低気温が氷点下だったとか…。

最近は夜明け前に目覚めることが多くなりましたが、温かいと身体が活動モードに入るせいか、もうひと眠りすることができず、ここのところ睡眠不足気味でした。

ところが今朝は、2時半にいったん目覚めたものの、再び布団にもぐりこむと同時に、いつもの起床時間まで爆睡。

久しぶりに爽やかな朝を迎え、五月晴れの好天にも誘われて、以前から妻が一度訪れたいと言っていた、上田市にある『無言館』という戦没画学生慰霊美術館に出かけました。

別所温泉を一望できる山の中腹に建てられた館内には、志なかばにして戦場に散った彼らの作品と共に、ご遺族が保管されていた手紙等の遺品も展示されていました。

無名の画学生の作品ですから、長年にわたり自宅の物置に置かれたままというように、保存条件が劣悪だったものも多く、絵の具が一部はがれた絵も展示されていました。

それに私たち夫婦は、二人とも絵に関する見識を持ちあわせてはおりません。

にもかかわらず妻は、夭折した画学生たちの絵の力強さに大きな感銘を受けたようで、いつになく熱心に見入っていました。

私は、やがて徴兵されて戦地へと赴く不安と葛藤しながら描いたのであろう、妻、恋人、母親、姉、妹等を描いた女性達の肖像を見て、青年画家が抱いたであろう愛おしさと、彼女らを守りきれない無念さを感じてしまいました。

口をつぐめ、眸をあけよ

見えぬものを見、聞こえぬ声をきくために

窪島誠一郎(無言館館長)

この美術館を訪れた人々は、単に画学生の無念さを思うだけに留まらず、戦争によって命を奪われた全ての人々の無念さを、我が身に置き換えて考えられたのではないでしょうか。