放 浪 記 (6)

-高原の風を運ぶ音楽-

2003.7 


漸く関東甲信地方の梅雨明けが宣言されました。

今年は曇天期間が長く大地がたっぷりと水分を吸収した所為か、例年以上に蒸し暑く感じられます。

昨日、今日と昼下がりは無風状態で、余りの不快さに、去年は全く使用しなかったエアコンで室内を除湿しながら、オーディオのスイッチを入れました。

日本の代表的な避暑地で生活しながら、エアコンの効いた部屋で音楽を聴くと言うのも情けない話ですが、止むを得ません。

爽やかさを求めて、5〜6年来ご無沙汰していたキリ・テ・カナワの歌う『オーヴェルニューの歌』を聴き始めました。

この曲集はフランス・オーヴェルニュー地方の民謡を、カントループが編曲して集成したもの。

野山を渡る風のそよぎや草いきれ等の、自然の息吹を巧みに表現したオーケストレーション。とりわけクラリネットやオーボエの牧歌的な響きは、聴いているだけで爽やかな高原の牧草地に佇んでいるような気持ちになれます。

そんな爽やかさを求めて軽井沢を訪れる方が大部分でなのでしょうが、それにしても今年の暑さときたら…!

歌詞の内容は、殆どが若い男女の他愛ない恋物語のようです。しかし熟年親父にとっては、昨今の理解できないメル友同士のあやふやな交際と較べると、太陽の下での喜怒哀楽が横溢するようなそれは、いかにも健康的な明るさが感じられます。

CDの冒頭から聴き始めましたが、当初設定した音量が少し大きすぎたのか、残響が次の音に被さり、フレーズ間の呼吸に余裕が無く、息苦しく感じられます。

こんな時は、音量を微調整することによって、不快な残響が抑えられて、曲の息づかいに余裕がでてきます。それは一流の演奏家が、綿密にホールトーンに配慮することによって、より美しい響きを奏でるようなものかも知れません…。

このCDでは、音量を僅かに絞ることによって、逆に空気感や音の気配が増してくる、といっためざましい効果がみられました。

最適音量と称して、一度固定したアンプのヴォリュームを動かそうとしない方がいらっしゃいますが、是非こまめに調整してください。

 このディスク、キリ・テ・カナワの気取りのない素朴な歌唱も、曲想と良く一致しているように思えます。

最も有名なバイレロ≠ナは、黄昏時の憂愁を彷彿させる木管の音色、川の流れを模したようなグロッケンシュピールの響き、オーケストラ伴奏と絶妙にマッチングしたキリ・テ・カナワのソプラノ。

自然に溶け込んで生活する人間の幸福を実感できる音楽です。

全5集、80分余の演奏は、不快な気候を忘れさせてくれた一時でした。