我々の知る数々のピアノ協奏曲の傑作群と比べて、ラプソディックな明るさを有し、リズム感もよく、親しみ易い旋律が登場するなど、屈託のない聴き易い作品と感じられます。
作曲者自身は、ピアノの腕は相当なものだったそうで、1927年に開催された第1回ショパン・コンクールにソ連代表として出場はしたものの、入選すらできなかったとのこと。
コンクールの結果を根に持って、権威主義的な本格的な作品には敢えて取り組まなかったのかと、つい邪推するのですが、果たして…?
エントリーするのは、エリザベート・レオンスカヤのピアノ、ヒュー・ウルフ指揮するセント・ポール管弦楽団、トランペット・ソロは同楽団の首席奏者のガリー・ボードナーによる演奏です。
これまでショパンやシューベルトで聴いてきたレオンスカヤというピアニストの端正なイメージから、こんな曲には向いていないだろうと考えたのですが、とんでもない!
全曲を通して、大変に面白く聴くことができました!
【第1楽章:Allegretto】
ピアノとトランペットによる華やかな短い前奏の後、ピアノがおもむろに気取った表情で第1主題を奏でますが、
それを丁寧に支える弦の刻むリズムが、まるでクスクスと忍び笑うかのよう…。
美しいのですが、ショスタコーヴィチ特有の諧謔味を感じさせるような、不思議な印象を受けました。
曲の進行に伴い、ピアノと弦楽オーケストラが丁々発止とせめぎ合う中、合の手を入れるトランペットに不安定な疾走感を覚える、第1楽章です。
【第2楽章:Lento】
月の光に照らされた水面に、一陣の風によってさざ波が拡がるような、ピアノの旋律が美しくロマンチックな楽章。
ミュートを付けたトランペットがさめざめと歌う再現部の美しさは、特筆もの!
消え入るように、曲は終わります。
【第3楽章:Moderato】
ピアノのアルペジョで幻想的な雰囲気を湛えつつ開始されるレチタチーヴォ風のこの短い楽章は、次第に重苦しさを帯びつつ、休みなく終楽章へとつながっていきます。
【第4楽章:Allegro con brio】
ピアノとオーケストラが激しくせめぎ合いながら、開始される終楽章ですが、すぐにラプソディックな方向へと転換。
トランペットがパロディー風の旋律を気持ちよさそうに奏でた後、息つく間もなく、益々ラプソディックに展開。
最後にはピアノの連打とトランペットやオーケストラが激しく掛け合い、ハチャメチャな明るさをもって曲は終了します。
ショパンやシューベルトでは、端正な演奏をしていたレオンスカヤが、思いがけずも変幻自在な演奏を展開するこの演奏。
とは言っても、アルゲリッチのように、感性の赴くまま自由奔放に展開する(と感じられる)演奏とは一線を画したもので、
随所に彼女の才知に富んだ閃きが感じられ、心底感心しながら聴き終えました。