そもそもグルックという名前を知っていたのは、「聖霊の踊り」という有名曲の作曲者として…。
その彼が、16世紀後半に誕生したものの、いつしか歌手の名人芸を聴かせる見世物と成り下がっていたオペラを、本来の音楽劇に復活させた功労者であったこと、
そして、「聖霊の踊り」が彼の代表作とされるオペラ「オルフェオ…」の第2幕第2場の音楽であることなど、全く知りませんでした。
そんな作品に興味を持たせてくれたのが、RCAのトスカニーニ全集の中に収録されている、当オペラの第2幕(しか収録されていませんが)を一聴した時…。
年代的に、J.S.バッハの生誕(1685年生)から29年後に生まれ、ハイドン(1732年生)よりも18歳年長の古典派の作曲家が、
こんなに劇的緊張感の漲った、ロマン的と思える作品を書いていたことに、驚きを禁じえませんでした。
ただ、この印象は、ひとえにトスカニーニの演奏に負うものかもしれませんが…。
【第1幕】
妻(エウリディーチェ)を亡くしたオルフェオは、悲しみのあまり彼女を現世へと連れ戻すべく、冥界に下ることを愛の神アモーレに願いますが、
彼の竪琴で、冥界の入口の番人である死霊の魂を鎮めて冥界に入ること、
そして連れ戻す時には、決して彼女の方を振り返らないこと、の二点を条件として許可します。
【第2幕】
冥界の入り口でオルフェオの行く手を阻む番人(復讐の女神や死霊)に、竪琴を奏でて亡き妻への思いを訴えることにより、冥界へ行くことが許されます。
冥界は、美しく澄み切った空に輝かしい太陽の光が満ちており、
オルフェオが佇む小川のほとりへ、亡き妻エウリディーチェが精霊たちに導かれてやって来ます。
【第3幕】
エウリディーチェを誘って現世へと向かうオルフェオですが、
愛の神との約束を遵守し、妻を振り返ることもしなかったために、
不信を抱いた妻は、彼の心変わりを疑って現世へ戻ることを拒否。
説得するために思わずオルフェオが振り返ったために、彼女は息絶えてしまいます。
絶望したオルフェオは、短剣で自らの命を絶とうとしますが、
愛の神アモーレが現れ、「お前の愛は真だ」と告げ、彼女を甦らせます。
以上、このように他愛のない粗筋ですが、第2幕を聴いた範囲では、音楽としては大変に聴き応えのあるもの!
第2幕第1場では、劇的な緊迫感が漲る、冥界入り口の描写や、
異界からやってきたオルフェオを脅そうとする、凄まじいばかりのオケの響きと合唱!
第2幕第2場の、フルートが奏でる有名な「聖霊の踊り」には、パストラール風の神々しい雰囲気が…。
静謐で高貴な雰囲気を湛えた合唱の素晴らしいこと。
とりわけ、第2場終幕の清らかな女声の合唱は、クリスマスの雰囲気を彷彿させるような、慎ましやかな祝福された喜びが滲み出ます。
バッハ後ハイドン以前の古典音楽の中に、劇的なロマンを盛り込んだ作品が書きあげられたことに、少々驚いています。
20世紀前半の大指揮者トスカニーニのみが成し得た、素晴らしい演奏芸術の世界かとも思います…。