最近聴いたCD

シューベルト:4つの即興曲 op.142(D935)

エリザベート・レオンスカヤ(ピアノ)


シューベルトの死の前年の1827年には、

歌曲集「冬の旅」、ピアノ三重奏曲第1・2番、ヴァイオリンとピアノのための「幻想曲」、そしてop.90&142の「即興曲(各4曲)」などの傑作が生み出され、

創作上の絶頂の年と評価されています。

死の病と対峙しつつ、恐怖を彼岸への憧れへと昇華させた素晴らしい作品群!

op.142の即興曲も、又然りです。


3年前にエントリーした内田光子さんによるop.90(D899)では、

打ちひしがれた状況に置かれつつも、彼岸への憧れを希求するがごときの演奏に心を打たれたことを覚えています。

今回(2015.3.1)も、彼女のop.142におけるそのような解釈に感銘を受けたものの、

より深く共感できたのが、深い慈しみをもって、打ちひしがれた人の心に寄り添うようなレオンスカヤノの演奏でした。

以前に聴いた時には、平凡で面白味のない演奏と思って、我が家では長らくお蔵入りしていたCDですが…。


【第1曲:Allegro moderate】

答えを求めて、強く問いかけるように開始される冒頭部。

試行錯誤しながら物語るように進行していきますが、

途中からは、打ち明けられる心情を優しく受け入れ、諭すようなダイアログ的な形式が…。

慈愛に溢れた、温かい趣を醸すレオンスカヤの演奏!

この第1曲目の印象は、後の3曲にも色濃く影響を及ぼしていること、曲を聴き進むにつれて実感した次第です。


【第2曲:Allegretto】

第1曲とは対照的に、モノローグ形式で訥々と孤独な心情を語るかのようなこの曲。

主題部は、確信に導かれたと思いきや、再び疑心暗鬼に陥る、揺れ動く心の表出が…。

中間部の軽やかなアルペジョには、容易に消し去ることのできない希求する夢が!

ふと我に返って、再び孤独な独白が始まります。


【第3曲:Andante】

変奏主題のロザムンデの音楽が、心に染入るように清楚な魅力を湛えて提示されます。

この曲の提示部をこんなにしみじみと聴き入ったのは、初めてのこと!

主題提示が消え入りつつあるところから、新たな生命が湧きいずるように現れる初々しい第1変奏は、清らかな水の流れに身を洗われるような、爽やかな心地良さ…。

第2変奏は、心浮き立つ愉しげなリズムと、陽を浴びて川面が輝くような効果的な装飾音!

憂鬱な旋律に加え、慟哭を思わせる激情的な三連符に支配された、短調の第3変奏。

右手が奏でる分散和音が、慎ましやかさを、シンコペーションのリズムが、浮き立つような喜悦を表現する、大変に素晴らしい第4変奏。

リタルランドの後、玉を転がすように、華やかでありながら愛くるしい旋律が奏でられる第5変奏。

そしてコーダ部は、これらが一場の夢であったかの如くに、静かに消え去っていきます。


【第4曲:Allegro scherzando】

転調を繰り返す主題部は、さながら雑念を振り払うために、憑かれたように舞曲に熱中するものの、心の安寧を得ることができない、そんな若者の姿を髣髴。

様々な思いが走馬灯のように駆け巡る中間部ですが、レオンスカヤの演奏からは、束の間の癒しのひとときが感じられます…。


スピーカーの前やコンサートホールで数々の演奏を聴いてきたop.142ですが、記憶に残る名演が、また一つ増えました!

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