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ベルリオーズ:レクイエム op.5  

ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)  エルンスト・ゼンフ合唱団
ジェームス・レヴァイン指揮  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団


「幻想交響曲」「イタリアのハロルド」で、若くして既に名声を獲得していたベルリオーズは、

1837年、フランス政府からの依頼で、7月革命による犠牲者を追悼する式典のためのレクイエムの作曲を依頼されました。

ただ、完成までの期限は切迫していたのですが、当時は創作活動の絶頂期でもあり、この大作は僅か3か月で完成されました。

この式典が行われるのは、パリの廃兵院礼拝堂と決まっていましたので、

ベルリオーズは会場の広大な空間に音楽が効果的に鳴り響くよう、巨大編成のオーケストラと合唱団を念頭に置いて作曲に取り組みました。

そんな経緯もあってか、或はそれほど深い信仰心を持ち合わせていなかったからとも言われるようですが、

特に前半部を聴くと、宗教的というよりも劇音楽的と感じるのですが、いかがでしょうか?

余談ですが、土壇場になって式典は音楽なしで挙行されることになったために、政府から作曲料は支払われなかったとか…。


【第1曲:入祭唱とキリエ(憐れみたまえ)】

悲劇を引きずるかのような冒頭部に続き、旋律的な動きの少ないキリエ部は、救われることのない陰惨な感情に支配されており、レクイエムの常道からは逸脱しているように思うのです…。


【第2曲:怒りの日】

地を這うような低弦の響き、救いを求めるようなか細い女声合唱に始まり、次第に切迫感を増す前半部。

4組のバンドによって「奇しきラッパの響き」が奏でられ、天変地異の恐怖が…。

オーディオ的にも大変興味深い音楽が展開されていきますが、最後には、静謐な祈りの時が訪れます。


【第3曲:その時憐れなる我】

前曲の恐怖が後を曳くように、寂寥感漂う音楽が…。


【第4曲:恐るべき御稜威(みいつ)の王】

一転して、王への敬意の念が、輝かしくも力強く歌われます。


【第5曲:我を探し求め】

アカペラで歌われるこの静謐さには、深い感謝の念の迸りを感じざるを得ません。


【第6曲:涙の日】

昇華されない悲痛さを剥き出しにした合唱が、生々しい感情を表出し、

大編成のオーケストラが天地の鳴動を彷彿させつつ、ドラマティックにクライマックスを形成していきます。


【第7曲:主イエス・キリストよ】

大海に浮かぶ小舟のように、運命に翻弄され、主に救いを求める、ひ弱な人間の姿を思わせる音楽。

この曲以降、このレクイエムの有する深層を表出したレヴァインの指揮には、脱帽です!


【第8曲:賛美の生贄】

天上との対話を思わせる神秘的な雰囲気を漂わせた、敬虔な音楽。


【第9曲:聖なるかな】

独唱テノール(パヴァロッティー)の深々とした慈愛に満ちた、天上から降り注ぐような美しい弱音!

中間部の「ホザンナ(助けたまえ)」の、力強く壮大なフーガ!

最後はテノール独唱が回帰し、更なる高みへと誘われる法悦のひととき…。


【第10曲:アニュス・デイ(神の子羊)】

敬虔な祈りの中に、遠くから鳴り響くティンパニの響きが神秘的な空間の広がりを生み出すことによって、静謐に締めくくられます。


管弦楽の巨大な響きを伴った楽章よりも、シンプルな静謐さに心惹かれる作品だと思います。

オペラ指揮者レヴァインは、そういったツボを心得ており、ベルリオーズの魅力を十二分に堪能させてくれた演奏でした!

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