バイロンの詩の概略は、
アルプス・ユングフラウにある城の主マンフレッドは、異母姉のアスターデと道ならぬ恋におち、
罪の意識に苛まれた彼女は、自殺にまで追い込まれます。
学問によって聖霊を呼び出す術を身につけたマンフレッドは、妖精たちにおぞましい過去を払拭するすべを問いますが、「永遠の生命」「地上の覇権」は得られても、それは叶いません。
死を求めてアルプス山中をさまよい、崖から身を投げますが、
狩人に救けられて介護を受けることによって、素朴な生活に憧れるものの、その生活にも馴染めず…。
ついには冥界に住む邪神アリマネスの神殿を訪れ、アスターテの霊に許しを請いますが、
彼女からは、死を予言されてしまいます。
それを受け容れ、救済をすべて拒絶したマンフレッドは、僧院長に看取られて、静かに息を引き取ることによって、苦悩から解放されます…!
バイロンの詩の内容がどの程度盛り込まれているのかは、私には分かりませんが、
第4と第5交響曲の間に作曲されたこの作品からは、
チャイコフスキー特有の仄暗い哀愁を含んだ流麗・優雅な旋律や、
絢爛豪華なオーケストレーションから生まれるドラマティックさがふんだんに聴き取れます。
リッカルド・シャイー指揮する、ロイヤル・コンセルトヘヴォウ管の演奏です。
【第1楽章:アルプス山中をさまようマンフレッド】
出だしのバスクラリネットとファゴットによるマンフレッドの主題は、交響曲第2番「小ロシア」の第1楽章第1主題に似たノスタルジックなものですが、
下降線をたどる低弦と共に、救いようのない陰鬱さに引き込まれていきます。
【第2楽章:アルプスの妖精】
妖精が飛び回る様子を彷彿させる、幻想的なスケルツオ主題。
トリオ部では、春風に吹かれるように、甘く爽やかな旋律が…。
最後にはマンフレッドの主題が登場することにより、夢のような世界が儚く消えていきます…。
【第3楽章:山人の生活】
オーボエ、ホルン、フルートなどの木管楽器が醸し出す、穏やかな憩いのひととき。
時折響く教会の鐘の音には、限りない幸福感が漂います…。
気高く美しい旋律が勇壮に高揚する部分は、この状況に安住することを許さない、マンフレッドの心境を表すのでしょうか…。
【第4楽章:魔女アリマネスの地下宮殿】
号泣するような金管の響き、極限にまで追い詰められた心を表わすフーガ部など、スぺクタクル且つ戦闘的に音楽が進行していく主部。
中間部で表現される、疲弊しきって、精彩を喪失したマンフレッドの主題は、極めて印象的なもの…。
最後に厳かに響くパイプオルガンの響きは、死によって苦悩から解放されるマンフレッドなのでしょう…。
以前に聴いたこの曲、誰の演奏かは忘れましたが、
その派手な鳴りっぷりばかりが目立ち、辟易した記憶があるのですが、
昨日、シャイー/コンセルトヘヴォウの演奏を聴いて、この曲の神髄の一端が理解できたように思いました。