それらを凌駕する作品を生み出すべく、2年の歳月を要して書き上げた労作が、弦楽四重奏曲第14〜19番のハイドンセットと呼ばれる作品群!
ハイドンに献呈されたために、この名がつけられたそうです。
その中で弦楽四重奏曲第18番は、
6曲中最も規模が大きく、構成的な面に留意された作品と言われており、
後にベートーヴェンが、初めて弦楽四重奏の作曲(op.18の6曲)に取り組む際に、フィナーレ楽章を写筆して研究したと。
そんな経緯で作曲されたために、様式にこだわるあまりか、特にメヌエット楽章などは、モーツァルト特有の楽想の迸りが全く感じられず、試行錯誤の跡が残されているよう…。
この曲の名演奏と思っている、アマデウス四重奏団の演奏を聴いても…です。
しかしながら、曲の内容は極めて充実したもの!
ベートーヴェンが筆写して研究したというエピソードも、理解できるような気がします。
【第1楽章:Allegro】
イ長調ですが、少し憂いを含みつつ、流れるように柔らかく提示される第1主題と、
そして、それを慰撫するような第2主題とが互いに微細に変化しつつ、美しい時を奏でていきます。
【第2楽章:Menuetto】
音楽が迸るように湧き上がるモーツァルト作品には珍しく、前楽章とは対照的に野太く素朴な旋律が、試行錯誤しながら探るように進行していく、そんなメヌエット楽章…。
前楽章、次楽章との関連から、意図的にこのように作曲されたのか、とも思うのですが…。
【第3楽章:Andante】
アマデウス四重奏団の演奏を聴いて、モーツァルトが書いた最高の音楽の一つと思うようになった、素晴らしい変奏曲!
やや憂愁を含んだ主題が穏やかな表情で提示される主題。
川の流れのように滑らかな第1変奏。
活発で愛らしい少女を思い浮かべるような第2変奏。
粛々として、ひめやかな第3変奏。
短調に変わり、時に激情的なまでの悲しみの表情を見せる第4変奏。
フガート風の展開を見せるコラール風の第5変奏。
チェロが活発且つユーモラスなリズムを刻む明るい第6変奏。
移り行く心の微細な変化が見事に表現された、素晴らしい作品であり、演奏です!
【第4楽章:Allegro】
強い志をもって天空へと羽ばくように、第1主題が提示されますが、次第に心は混迷に陥っていくようなフィナーレ楽章。
立ち向かったものの、解決しえない心の苦悩を吐露するように、曲は終わります。
モーツァルトが、もしあと10年生きることができたら、どんな作品が誕生したのだろうかと思わせる、
そんな片鱗をのぞかせてくれる作品かもしれません。