愛人のマリー・ダグー伯爵夫人(10年間同棲生活を送る・ワーグナーの妻コジマはこの時生まれた子供の一人)とともにスイスへ逃避行し、ジュネーヴで腰を落ち着けましたが、
その時に訪れたスイス各地での「強い感動や鮮明な印象」を音にまとめ、1842年に3部19曲から成る「旅人のアルバム」を出版しました。
それから10年後、この内から7曲を抜粋して改訂し、新たに2曲を作曲して出版されたのが、「巡礼の年第1年:スイス」。
ダグー夫人とは、既に別れていたそうですが…。
エントリーするのは、この曲集の名演奏として知られる、ラザール・ベルマンによるものです。
【1.ウィリアム・テルの聖堂】
スイス独立に貢献した英雄ウィリアム・テルにちなんだ曲。
崇高な旋律からは、英雄の崇高な夢や理想が、
重々しく荘重なフレーズからは、英雄の孤独感が滲み出るような演奏です。
【2.ワレンシュタットの湖で】
澄み切った大気と、湧き上がる清水のような清涼感…。
舟を漕ぐ櫓のような音の動きと、素朴な旋律が絶妙の演奏です!
【3.牧歌】
愛らしい子供たちの踊りを思わせる、穏やかっでチャーミングな曲!
【4.泉のほとりで】
陽に映える水のきらめきが表現された、詩的で美しい演奏!
【5.嵐】
強風吹きすさぶ表現は、運命に翻弄される人間の姿を思わせる、
そんなスケールの大きさと深い含蓄が彷彿されるベルマンの演奏です。
【6.オーベルマンの谷】
深い思索と瞑想の音楽…。
神の啓示を受けたかのように、心の芯から揺さぶられる、痺れるような感動的な瞬間!
エンディングには、宗教的な静謐な喜びが訪れます!
【7.牧歌】
明るく伸びやかで、どこか異国的(?)な雰囲気を漂わせた、不思議な魅力を持つ曲です!
【8.郷愁】
祈りのようであり、慈しみを感じさせるのですが、
この曲集の中では、観念的に過ぎるという印象を抱いてしまいます…。
【9.ジュネーヴの鐘】
果てしなく広がる蒼穹に吸い込まれていくような、鐘の音。
ダグー夫人との間に生まれた初めての子供の幸福を願って作られたと言われるこの作品からは、「この静謐さが永遠に続くように!」との祈りが聴き取れるよう…。
「スイス」という表題からも推せるように、絵画的な表現の中にリスト特有のロマンが盛り込まれた、名曲の名演だと感じました。