その中でも第29番は、「小ト短調」と呼ばれる第25番と並んで、後期の交響曲にも劣らない、深い内容を有した作品と評されています。
同時期に書かれた他の7つの交響曲が、社交的・娯楽的な要素を脱しない作品であるのに比べ、
同時期に同一ジャンルで、内容の充実した作品を苦も無く書き上げるのは、それこそ天才のみが成せる業なのでしょう…。
この曲、LP時代にI.ケルテス指揮するウィーン・フィルの演奏を皮切りに、何十種類ものディスクを聴いてきましたが、
中でも、K.ベームが最晩年(1981年)にウィーン・フィルを指揮した第1楽章、
レガート気味にゆったりとしたテンポで奏される弦楽器と、
オーボエやホルンの管楽器の鄙びた響きが醸す雰囲気は、
あたかも、穏やかな川の流れに身を任せるような心地良さが…。
聴くたびに、時を忘れて、その音色に陶酔したものでした
しかし、今日エントリーするのは、クレンペラーが1965年にニュー・フィルハーモニアを振ったセッション録音。
最近になって初めて聴いたのですが、ベートーヴェンを思わせるほどに人間的で、この曲にこんな解釈も可能なのかと驚き、共感したからです!
【第1楽章:Allegro moderate】
ワクワクするような予感を抱かせるようであり、ふと洩らすため息のようにも聴き取れる、典雅な趣を有した魅力的な第1主題!
その後第1主題が登場する直前、大きなためらいのようなリタルランドをかけるクレンペラーの演奏には、恣意は全く感じられず、
ごく自然な流れとして、ワクワクするような不思議な美しさを持つこの曲の魅力を、最高度に発揮しているように思えます。
【第2楽章:Andante】
つつましく歩むような、ミュートを付けたヴァイオリンの歌!
室内楽風の、慎ましやかな雰囲気を湛えた音楽ですが、
ホルンやオーボエの合いの手が、曲の愉しい趣が倍加します。
【第3楽章:Menuetto】
壮麗ですが、付点リズムやホルンの響きが面白いメヌエット部。
哀愁を含んだトリオ部の流d暢な旋律との対比が、素晴らしい!
【第4楽章:Allegro con spirito】
勢いよく颯爽と登場する第1主題は、限りないダイナミズムが秘められたもの。
曲が展開されるにつれて、姿・形ではなく、内面が一気に奔騰するような素晴らしい充実感を体験しつつ、クライマックスへと向かいます。
力強い躍動感にあふれたクレンペラーの演奏、是非ご体験いただきたいお薦め盤