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A.オネゲル:クリスマス・カンタータ  

ジャン・マルティノン指揮  フランス国立管弦楽団・合唱団他


オネゲルといえば、「パシフィック231」に代表されるように、対位法の技術を駆使した躍動感あふれる楽曲で知られていますが、

その一方では、バッハを尊敬し、キリスト教信仰に根ざした深い思索を通じて、内省的で重厚な作品を生み出しています。


1947年に自作を指揮するために訪れていたニューヨークで狭心症を患い、危うく一命をとりとめたものの、

その後は、生涯にわたってこの病に苛まれながら、創作活動を続けることとなります。

そんな彼の最後の作品(1953年完成)となったのが、この「クリスマス・カンタータ」!

1945年頃に着想された受難劇のスケッチに基づいて、新たに書き改められた単一楽章の作品ですが、

「暗黒の時代」「キリスト生誕」「讃歌」と呼称できる、3つの部分によって構成されています。


【第1部】

冒頭のオルガンの重低音が奏でる不協和音、それに続く合唱によるヴォカリーズが、救いようのないほどに暗鬱な雰囲気を湛えたもの。

心の傷をかきむしるように鋭く奏でられる弦の響きが、救いの見いだせない苦悩を感じさせつつ頂点を迎えるさまは、

この曲の3年前に完成した「交響曲第5番(1950年完成)」の世界を彷彿させます。

やがて、児童合唱が彼方から射す一条の光のごとくに登場し、救世主の誕生の予感が…。


【第2部】

バリトンのソロが、救世主(イエス)の誕生を告げると、曲は次第に穏やかで祝典的な気分へと転換していきます。


【第3部】

合唱による「清しこの夜」などのクリスマス・キャロルが歌われ、

祝福のラッパに導かれてパイプオルガンが鳴り響き、大きなクライマックスを迎えますが、

この部分のポリフォニックに展開される対位法は、身震いするほど感動的なもの!

しかし、次第に静寂へと収束していくエンディングは、

自ら祝典的な場から身を引き、静かに人生の最期を迎えるかのごとき趣を有したもの…!

老人の孤独ながらも達観した心境に、共感を覚える年齢になったのでしょうか。


心が洗われるようなマルティノンの解釈の素晴らしさに、ぜひとも耳を傾けていただきたいと思います!

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