これらの小品のそれぞれには、過ぎ去りし日々を懐かしむように、穏やかな哀愁に満ちた、心に染入るような旋律が収められています。
特に晩秋から初冬にかけてこれらの作品を聴くと、
若かりし日々、とりわけ精神的には自由闊達な生活を送ることができた高校・大学生時代の漠然とした郷愁を、ふと思い起こしてしまいます。
今日エントリーするop.117も、勿論然り!
朝から冷たい雨が降り続き、周囲の木々の葉が紅・黄葉へと粧いを変えていく今日は、
今から61年前の1953年に、W.ケンプがスタジオ録音した演奏で…。
枯淡の境地というよりも、
瑞々しく、時に溢れんばかりの覇気が感じられるゆえに、
古の想い出が生き生きと蘇り、一層郷愁が深まる、
そんな素晴らしい演奏です。
【第1曲:間奏曲 イ短調】
冒頭から、焦がれるような情熱の迸りが感じられる中にも、どこか諦観が漂う、いかにもブラームスらしい佳曲。
【第2曲:間奏曲 イ長調】
風もなく澄み切った秋空のもと、舞い落ちるひとひらの葉を見るような、静かな哀愁が漂う美しい音楽です!
【第3曲:バラード ト短調】
颯爽として力強い表情の中に、懐かしさが漂う主部。
穏やかな中間部には、静かな満足感が漂います。
【第4曲:間奏曲 ヘ短調】
思いが実らぬ切なさを歌うような主部。
心穏やかな中間部を経て、一層思いが激しく募ってくる後半部。
【第5曲:ロマンス ヘ長調】
心が揺蕩うような、甘い曲想を持つ主部。
中間部では、メリーゴーランドで遊ぶような無邪気ささえ感じ、懐かしさがこみ上げてきます。
【第6曲:間奏曲 変ホ長調】
幻想的な雰囲気が漂う主部は、冬の訪れを彷彿させるもの。深い諦観が漂う終曲は、夢のように儚く消えていきます。
聴きこむほどに深い味わいが出てくる、ケンプの真骨頂がうかがい知れる、素晴らしい演奏だと思います。