ラズモフスキーの3曲が、充実した気力と熱い情熱の迸りが如実に感じられる傑作であることに異存はないのですが、
第10番では、それらが一段落し、内省化する傾向がみられる分、
精神的なゆとりが感じられる音楽へと昇華されつつあるように思えます。
今日エントリーするアルバン・ベルク四重奏団の旧盤(1978年録音)を聴くと、そういった印象が一層深まってきます。
【第1楽章:Poco adagio−Allegretto】
しみじみとした安らぎの中、次第に精神的高揚感が湧き上る、柔和だが充実した冒頭部。
主部は、静かな決意を表す主旋律と、それを支えながら鼓舞するようなピッチカート。
同じ年に変ホ長調で書かれた、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」や、ピアノ・ソナタ第26番「告別」と同様に、
肩の力を抜いて、自然体で前進するベートーヴェンの境地を感じさせる楽章です。
【第2楽章:Adagio ma non troppo】
不安げに、か細く第1ヴァイオリンによって奏される第1主題。
叶わぬ思いが切々と歌われるような、第2主題の無垢で美しいこと!
祈りにも通じる深い瞑想感に包まれた、至福の時が訪れます。
【第3楽章:Prest】
覇気に溢れて力強く前進する、若々しいスケルツォ主題。
中間部のフーガ風の部分は、立ちはだかる艱難辛苦を突き破るような激しさが感じられますが、すぐに終わります。
【第4楽章:Allegretto con variazioni】
切れ目なく続く終楽章は、前楽章とは一転して、ようやく訪れた寛ぎを思わせるような穏やかな主題が提示され、
それに続く6つの変奏は、穏やかでありながら濃い翳りを有する心象風景が投影されているかのような、そんな味わいを有した演奏…。
コーダではスピードを上げつつも、最後は無事で安らかであることを祈るように、静かに終わります。
アルバン・ベルク四重奏団のベートーヴェン全集の中でも、白眉の演奏だと思います。