やむなくモーツァルトだけが辞表を提出し、
母親とともに新しい就職先探しも兼ねて、1年4か月にわたりミュンヘン、マンハイム、パリ(1778年、同行した母親が死去)を訪れます。
マンハイムでは、12年ぶりに(K.55〜61の偽作を除く)、当地で大変に人気のあったジャンルのヴァイオリン・ソナタを5曲(K.296、301〜3、305)書き上げますが、
その内の4曲は2楽章形式で、その後パリで作曲した2曲と合わせて出版。
今日エントリーするK.296だけは3楽章形式からなるもので、
マンハイムで宿舎を提供してくれた宮廷顧問官の娘テレーゼ・ピエロン(15歳:ピアノを教えていた)に献呈するために、パリへと旅立つ3日前に書かれたもの。
他の4曲よりも、ピアノに重点が置かれているように感じられるのは、そういった理由からでしょうか?
のびのびとした親しみ易さとピアノの愛らしい表情が際立った、パールマンのヴァイオリンとバレンボイムのピアノによる、幸福感に溢れる演奏で!
【第1楽章:Allegro vivace】
勢いよく溌剌と開始されますが、ピアノが奏でるコロコロと転がるような旋律の、清らかで爽やかなこと!
心が自ずと和んでくる、魅力あふれるバレンボイムの演奏です。
【第2楽章:Andante sostenuto】
モーツァルトが幼い頃に教えを受けた、J.C.バッハ作曲のアリア「甘いそよ風」を主題とする変奏曲。
主題を奏でるバレンボイムのピアノは、我が子に語りかける母親のように、慈しみに溢れたもの!
途中、僅かに愁いを含んだパールマンのヴァイオリンがピアノに寄り添う部分の、美しいこと!
【第3楽章:Rondou、Allegro】
ピアノが奏する主題に、なぜか懐かしさを覚える終楽章。
ヴァイオリンの柔らかで伸びやかな音色が、ピアノの表情に、より溌剌とした精彩を与える、見事な演奏だと思います。