最近聴いたCD

M.ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調

アルカント四重奏団


ラヴェルの唯一の弦楽四重奏曲は、27歳の1902〜03年にかけて作曲され、翌年初演されましたが、

その後も推敲が重ねられ、1910年に新しい版を出版したとか。

ライナー・ノートには特に記載されていませんが、現在我々がCDで聴いているのは、1910年版なのでしょうか…。

神経を研ぎ澄ませて聴くと、繰り返される転調によって、刻一刻と繊細に変化していく個々の楽器の音色やハーモニーが、心地良く五感にしみわたり、

幻想の世界へと誘われていくような音楽。

尚この版は、恩師G.フォーレに捧げられています 。


今日エントリーするのは、2009年にセッション録音されたアルカント四重奏団の演奏。

特に第2楽章以降は、聴くほどに幻想的な深い内容を有した素晴らしい作品であり、演奏だと思います!


【第1楽章:アレグロ・モデラート】

第1ヴァイオリンとヴィオラの奏でる旋律が、むせるような芳しい花の香りを思わせる第1楽章冒頭部。

ただ、この楽章、とりわけ冒頭部では、個々の楽器の個性が強すぎるためか、

その後の刻々と変化するアンサンブルの妙が希薄に感じられて、誠に残念!


【第2楽章:アッセ・ヴィフ (十分に生き生きと)】

4つの弦のリズミカルなピチカートで開始される、一見華やかな社交界を思わせる第1主題。

身も心もとろけるような第2主題が絡み合うものの、虚無感が漂い、その裏の世界を彷彿させます。

中間部は、官能的な幻想の世界なのでしょうか。

幸福感の中にも、退廃的な雰囲気が漂います。


【第3楽章:トレ・ラン(非常に緩やかに)】

不気味な静寂の世界は、殺伐とした心象風景を投影しているのでしょうか。

月明かりに照らされた荒野に一陣の風が吹き、虚無感が漂い…。

ヴィオラの控え目な音色が深く心に染み渡ってくる、印象的な演奏です。


【第4楽章:ヴィフ・エ・アジテ(生き生きと激しく)】

過酷な運命に急襲されるような、衝撃的な冒頭部の動機と、

ちょっぴり諧謔味を忍ばせたエキゾチックな旋律とが交互に登場し、

次第に幻想に翻弄されつつ進行していく終楽章。

異次元的な体験を楽しませてくれる、素晴らしい演奏だと思います。

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