ピアニストや民族音楽研究家としての名声は高まる一方、作曲家としての業績は、しばし不本意な状況。
しかし、1921〜22年にかけて作曲されたヴァイオリン・ソナタ第1、2番以降の作品は、それまで編曲作品と自作とを区別するために付けていた作品番号を廃止!
純音楽的な志向に目途がつき始めた、
すなわち収集したハンガリー民謡をバルトーク風に活かすべく創意工夫に光明が見え始めた、
そんな時期の作品と言えるのでしょう。
エネスコの「幼き頃の印象」という曲を聴こうと取り出したCDにたまたま併録されていた、クレーメルトマイセンベルクのコンビによるこの演奏は、数多くの発見をもたらしてくれました。
緩急の2楽章で構成されるこの曲は、アタッカで結ばれており、休みなく演奏されます。
【第1楽章:Molt moderate】
ヴァイオリンが民謡風の悲痛な旋律を奏でる中、
ピアノがドビュッシーを思わせる印象派風の音色で寄り添い、魅惑的な不思議な世界を紡ぎ出す冒頭部。
ヴァイオリンがシャーマンを思わせる不気味な雰囲気を漂わせ、
ピアノが次第にパーカッション的に扱われることによって、曲の雰囲気は次第に高まり、やがて高貴で深い悲しみを湛えつつ、魂が浄化されたような世界が…。
【第2楽章:Allegretto】は、ヴァイオリンのピッチカートによって、民族的な雰囲気を湛えつつ開始されます。
野性味あふれるピアノの強打を伴って、次第に荒々しく展開されていきますが、
威風堂々とした側面を伴っており、不思議な陶酔感が…。
マジャール的な舞曲が次第にトランス状態へと高まっていく後半部は、バルトークのマジックに酔いしれるよう…。
最後は宗教的な静謐さを湛えつつ、天空に消え入るように終わります。
印象派風の精緻な世界や、ストラヴィンスキーのバーバリズムを思わせる強烈なリズム…。
不思議な魅力を湛えつつ、大変に興味深い世界を展開してくれるこの音楽。
他の演奏はほとんど記憶にないのですが、
クレーメルとマイセンベルクの演奏に心を揺さぶられ、2度3度と繰り返し聴き入ってしまいました。