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シューベルト:

ピアノ・ソナタ第14番 イ短調 D784  

内 田 光 子(ピアノ)


この曲が書かれた1823年当時にシューベルトが罹患した梅毒は、まだ治療法の見いだせない、死に至る病とされていました。

1819年に書かれた愛らしく優雅な第13番ソナタから一転、

そんな病に侵されていることを知った直後に書かれた第14番!

凡人には及びもつかない、不屈の精神力で書き上げられたのであろう作品ですが、

高貴な輝きと同時に、救いようのない絶望感が聴き取れるのは、やむを得ないことでしょう。


この曲に向き合い、シューベルトの未だ昇華されるに至らない心境を赤裸々に反映させた解釈を採ったのが、内田光子さんの演奏!

不安という靄に包まれ、

時折射し込む一条の光にも慰めを見出すこともかなわず、

ちぢに乱れる心の動揺が生々しく伝わってきます。


【第1楽章:Allegro giusto】

絶望的に、力なく開始される冒頭部。

前のめりに強打される付点リズムからは、シューベルトの心の苛立ちが真に迫って感じられます。

そして、何かに縋る気力もなく、ただ運命に流されていくような…

そんなシューベルトの姿を彷彿させる、ある意味寒気を催すような、怖ろしい音楽が展開されます。


【第2楽章:Andante】

絶望した心を、優しく慰撫するような音楽なのですが、

内田さんは、自らに科せられた運命に打ちひしがれて時を経ない、生命力の希薄な人間を表現しているように思えます。

不治の病を告げられ、打ちのめされた人の心にせめぎ合う一縷の望みと絶望!

大変に厳しい、しかし的を得た解釈だと思います。


【第3楽章:Allegro vivace】

とめどなく湧き出ずる泉のように、瑞々しい生命の誕生を感じさせる第1主題は、スメタナの「モルダウ」冒頭部を彷彿します。

この第1主題と、

いかもシューベルトらしい、儚い憧れを託したような第2主題とが交互に現れ、展開されていくさまは、

落ち着き先の定まらない、さまよう心の表現でしょうか。


これまでは、第2楽章に不満を抱きつつも、

ラドゥ・ルプーやイングリッド・ヘブラーの美しい第1、3楽章を好んで聴いていた私ですが、

内田さんの演奏は、まさに正鵠を得たもの!

是非とも、ご一聴をお薦めしたいと思います。

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