最近聴いたCD

B.バルトーク:
弦・打楽器・チェレスタのための音楽  

J.レヴァイン指揮  シカゴ交響楽団


スイスの指揮者で、バルトークのよき理解者でもあったP.ザッハーの依頼によって、1936年に書かれたもの。

当時、バルトークの母国ハンガリーは、第1次世界大戦による敗戦国となり、トリアノン条約によって多くの領土と国民を失っており、

かつ、ヨーロッパ全土には、ファシズムの台頭による危機感が迫りつつある状況…。

彼の最高傑作とされるこの作品に、そんな世情が反映されているのは、当然のことと考えられましょう。


私がまだバルトーク作品にそれほど親しめなかったころから、レヴァイン/シカゴ交響楽団によるこの曲の演奏に、魂を揺さぶられるような悲しみや喜びを覚え、強い魅力を感じていました。

ただ、その後ほとんど聴かなかった理由は、

音楽専門誌で名演とされる演奏が、軒並みハンガリー出身の指揮者たちに偏っていたために、

「曲の本当の良さが理解できていないのでは?」と考え、無意識のうちに避けていたのだと思います。

ユダヤ系のアメリカ人レヴァインの指揮するこの演奏を、ほぼ10年ぶりに聴きましたが、

以前と同じように、十二分にマジャールの民族色が感じられた、大変に魅力のある、説得力の強い演奏でした。


【第1楽章:Andante tranquillo】

静かな緊張感を湛えたすすり泣くような主題がヴィオラによって提示され、フーガ的に発展していくさまは、

さながら祖国ハンガリー、さらにはヨーロッパ全土へと拡がる人類の悲劇を彷彿させる、大変に印象的なもの!

静かな悲しみは、慟哭へと高まり、

やがて、人類の滅亡を思わせる静寂の世界が訪れます。

そこに鳴り響く、寂寥としたェンバロの音色…。


【第2楽章:Allegro】

対抗配置された弦楽器のピッツィカートでのかけ合いと、炸裂するパーカッションに、

マジャール民族の底知れぬエネルギー感を覚える楽章。

とりわけ後半で、フーガの技法を使って地底から噴き上がるような圧倒的なエネルギー感を表現した音楽には、野蛮かつ野性的な快感すら覚えます。


【第3楽章:Adagio】

ティンパニーのグリッサンドやシロフォンの響きによって、原始のシャーマンの世界へと誘われます。

そんな静謐さの中に悲しみが込められたこの楽章は、私には古のマジャール民族に対するレクイエムのように響きます。


【第4楽章:Allegro molto】

強烈なエネルギーを伴った舞曲が、喜悦感をともなって次第に高まっていくさまは、マジャール民族への讃歌なのでしょう。

途中、第1楽章の主題がチェロによって深々と歌われるさまは、民族の苦難の歴史を回顧するような趣が感じられます。


かつては、「本場もの」という言葉で評価されがちだったバルトークの演奏ですが、

、没して70年近くが経った今、人類共有の芸術としての輝きが増してきたように感じています。

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