最近聴いたCD

G.マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」  

テンシュテット指揮 
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団他


悲劇を扱った(マーラーの言)とされる交響曲第1〜7番や、「大地の歌」、第9番とは異なり、第8番は歓喜と栄光を讃えた交響曲!

作曲者自身、スケッチが書きあげられた1906年に指揮者メンゲルベルクに宛てて、

「自らが書いた最大の作品であり、内容・形式ともに類を見ない独特なもので、言葉で言い表しようがないのですが、宇宙が震え、鳴り響き始めるのを想像してください」

そのような手紙をしたためたそうです(ライナーノートより)。

そのために、途方もなく大編成のオーケストラに加え、8名のソリスト、2組の混声合唱と、1組の児童合唱までもが要求されています。


30年ほど以前、仕事上のお付き合いをさせていただいていた「マーラーの曲は、なんでも大好き!」という音楽愛好家の方が、

唯一の例外として、「第8番はこけおどし的で、どうにも好きになれない」とおっしゃっていましたが、

数多くのマーラー演奏がCDやDVD化されて出回っている昨今、氏はどう思っておられるのか、お聞きしたいものだと思っています…。

と言いますのは、最近の私、マーラー作品の中でもしばしばこの曲を取り出して、大きな感動を受けることが多くなってきました。

とりわけ、今日エントリーするテンシュテット/ロンドン・フィルの演奏…!


第1部は、讃歌「来たれ、創造主たる聖霊よ!」

第2部は、ゲーテ「ファウスト」からの最後の場面、

すなわち、山峡で天使や聖書上の登場人物が人々の諸々の罪悪からの救済を唱和され、最愛の恋人だったマルガリータがファウストの魂のために祈りをささげることによって、彼の魂は悪魔(メフィストフェレス)から救済されて、昇天していく場面です。


【第1部:讃歌】

物凄い風圧のパイプオルガンの響きに続き、大合唱で開始される冒頭部は、確かにこけおどし的な側面も感じます!

しかしその後は、聖霊降臨のドラマが、じっくりと語られていくような、大変に趣の深い演奏が展開されていきます。


【第2部:ゲーテのファウスト第2部より終章】

まず、オーケストラだけで奏されるシャーマンを思わせる神秘的な響きは、救済を求める隠者の住む山峡の、寂寥とした情景を表現しているよう。

地底から響くような男声合唱の囁きに加えて、フルートの寂寥とした響きが、そんな情景を一層際立たせます。

絶望の中にも、これから起こる奇跡に胸ときめかせるような、見事なテンシュテットの演奏!

児童合唱団による清純無垢な歌声は、無邪気に自由闊達に飛び回る天使たちを思わせ、清らかな世界が展開されていきます。

この場面でのソロヴァイオリンの音色の美しさは、マーラーの天上世界への憧憬を感じてしまいます!

あらゆる楽器を総動員した巨大編成のオーケストラに加え、

混声合唱、児童合唱、8人のソリストによって人間の諸々の罪悪からの救済が歌われつつ、

おおよそ1時間近くにわたって人間賛歌へと集約されていく盛り上がりの見事さは、

まさに鳴動する宇宙に生を得ている法悦感すら覚えるのです。


明日は七夕!ゲーテの高邁な思想は私には到底理解できそうもありませんが、夜空を眺めながら、天地創造に思いをめぐらすことも、また一興かなぁとも思います。

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