最近聴いたCD

D.ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番 ハ短調  

エマーソン四重奏団


同じ1960年に書かれた第7番が、「6年前に亡くなった妻への想い出のため」に書かれたと言われますが、

第8番には「ファシズムと戦争の犠牲者に捧げる」とのタイトルが付けられています。

これまでの自作品の主題が多用されていることから(私には殆ど聴き取れませんが)、

この「犠牲者」とは、スターリン時代の圧政によって自由や創作力を剥奪されたと自覚する、ショスタコーヴィチ本人を指すようです。

いかにも彼らしい話ではありますが…。

5楽章を通じ、休みなく演奏されるこの曲、

今日聴いたのは、アスペン音楽祭におけるエマーソンSQの演奏!

ライブながら、アンサンブルには全く綻びがなく、

整然とした中にも、息を呑むような白熱した演奏が展開される、弦楽四重奏全15曲中でも屈指の名演!


【第1楽章:Largo】

陰鬱さに覆われて開始され、次第に寂寥とした孤独感が深まっていく第1楽章。


【第2楽章:Allegro molto】

狂ったように暴力的に突進していく音楽ですが、エマーソンSQの一糸乱れぬアンサンブルで聴くと、なぜか言いしれぬ快感を覚えるのです…!


【第3楽章:Allegretto】

ひきつった冷笑を感じさせる、諧謔を弄したスケルツォ部!

狂気の中を逍遙するような、実在感の希薄なワルツの響き…!

摩訶不思議な魅力を有した、第3楽章です。


【第4楽章:Largo】

非情な運命の訪れを思わせる強烈な三連打は、KGB(秘密警察)が捜査に踏み込む時のノックを表わしたものとか!

それに続いて、慟哭するようなチェロの響き、

悲しみが次第に癒され、天国的に清浄なパストラール風の時の訪れ…。

しかし再び三連打によって打ち消されて、終楽章へと…。


【第5楽章:Largo】

冒頭では、悲しみについて人間的な同情や共感を帯びながら語られつつも、

次第に寂寥感に覆われつつ、陰鬱な雰囲気へと沈んでいきます。


スターリン時代の恐怖政治の下で、したたかに生き抜いてきた、伝え聞くショスタコーヴィチの人間性には決して共感は出来ませんが、

そんな彼が書いた音楽には、益々惹かれるようになって来るのです…。

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