第8番には「ファシズムと戦争の犠牲者に捧げる」とのタイトルが付けられています。
これまでの自作品の主題が多用されていることから(私には殆ど聴き取れませんが)、
この「犠牲者」とは、スターリン時代の圧政によって自由や創作力を剥奪されたと自覚する、ショスタコーヴィチ本人を指すようです。
いかにも彼らしい話ではありますが…。
5楽章を通じ、休みなく演奏されるこの曲、
今日聴いたのは、アスペン音楽祭におけるエマーソンSQの演奏!
ライブながら、アンサンブルには全く綻びがなく、
整然とした中にも、息を呑むような白熱した演奏が展開される、弦楽四重奏全15曲中でも屈指の名演!
【第1楽章:Largo】
陰鬱さに覆われて開始され、次第に寂寥とした孤独感が深まっていく第1楽章。
【第2楽章:Allegro molto】
狂ったように暴力的に突進していく音楽ですが、エマーソンSQの一糸乱れぬアンサンブルで聴くと、なぜか言いしれぬ快感を覚えるのです…!
【第3楽章:Allegretto】
ひきつった冷笑を感じさせる、諧謔を弄したスケルツォ部!
狂気の中を逍遙するような、実在感の希薄なワルツの響き…!
摩訶不思議な魅力を有した、第3楽章です。
【第4楽章:Largo】
非情な運命の訪れを思わせる強烈な三連打は、KGB(秘密警察)が捜査に踏み込む時のノックを表わしたものとか!
それに続いて、慟哭するようなチェロの響き、
悲しみが次第に癒され、天国的に清浄なパストラール風の時の訪れ…。
しかし再び三連打によって打ち消されて、終楽章へと…。
【第5楽章:Largo】
冒頭では、悲しみについて人間的な同情や共感を帯びながら語られつつも、
次第に寂寥感に覆われつつ、陰鬱な雰囲気へと沈んでいきます。
スターリン時代の恐怖政治の下で、したたかに生き抜いてきた、伝え聞くショスタコーヴィチの人間性には決して共感は出来ませんが、
そんな彼が書いた音楽には、益々惹かれるようになって来るのです…。