最近聴いたCD

G.フォーレ:弦楽四重奏曲ホ短調 

パレナン四重奏団


初期には柔らかく、上品で洗練された作風のために、パリのサロンに受け入れられたフォーレでしたが、

1880年代の後半からは、次第に現実を超えた高みへの憧れが多彩に盛り込まれるようになりますが、

聴覚障害に悩ませれるようになった晩年には、次第に簡潔かつ厳しい現実が表現されるように変化してきました。

今日エントリーする弦楽四重奏曲ホ短調は、フォーレの書いた唯一の弦楽四重奏曲であり、死の年(1924年)に書かれた、末筆となった作品。

多くの作曲家が、ベートーヴェンという存在の大きさのために、畏怖し、作曲を敬遠してきたとされるこのジャンルですが、

フォーレも又、自身の作品に確たる自信を抱くことが出来ず、

その出版を、信頼する友人たちの判断に委ねたとか!

同じ晩年の作品でも、1921年に完成したピアノ五重奏曲第2番の、燃えるような美への憧れや情熱、壮麗な残照の輝きを思わせる作品とは一線を画し、

払拭できない不安と同居する儚い憧れが、灯火のように弱々しく描かれているように思えるのです。


【第1楽章:Allegro moderato】

ためらいがちに問い掛けるヴィオラの響きに対し、ヴァイオリンがそれに応える第1主題は、

確信することができない不安に苛まれるような、不思議な感覚を湛えたもの。

第2主題は、瑞々しさを湛えつつも、儚くも美しい思いが込められたものですが、

思いは成就することなく、逆に消滅していくようで、苛立たしささえ覚えます。

死期を予知したフォーレの心境が痛いほどに伝わってきて、救いのない悲痛さを感じてしまう音楽です。


【第2楽章:Andante】

冒頭のすすり泣くような響きに支配されたこの緩徐楽章からは、

どんなに願おうとも成就できない現実を突きつけられた老人の、救いのない諦めの気持を感じずにはおれません。


【第3楽章:Allegro】

前楽章の呪縛から解き放たれたように、肩の力が抜けたロンド風の喜悦を感じさせるこの楽章!

パレナン四重奏団による演奏を聴くと、

この喜悦感は、「死によってのみ、苦しみから解放される」というメッセージかと、ふと思ってしまいました…。


死期を迎えたフォーレが、この曲の出版を友人たちに委ねた理由、何となく解るような気がします。

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