その後亡くなるまでの一年間、病をおして2曲の「ピアノ三重奏曲」、「ミサ曲第6番」、「弦楽五重奏曲」
そして死の僅か1か月前には、3曲の「ピアノソナタ」を完成させました。
これらの作品には共通して、
間近に忍び寄る死への恐怖と真正面から対峙しながらも、
生きることの喜びや悲しみ、孤独、さらには彼岸への憧れに救いを求めるような、
最晩年のシューベルトの、痛切な心の叫びが反映されていると感じられます。
前述した最晩年の3曲のピアノソナタそれぞれは、
その外観的な印象から、情熱的な「第19番」、深いロマンティシズムを湛えた「第21番」と言われており、
今日エントリーする「第20番」は、明るく均整のとれた佇まいを有するとされるソナタ!
しかしながら、私が愛聴するポリーニの演奏からは、
シューベルトの心に内在する彼岸への憧れと同時に、
狂おしいまでの生への執着が聴き取れます。
【第1楽章:Allegro】
冒頭、力強い和音で開始される第1主題は、
決然と何かに立ち向かう意志の力が感じられるものの、
せっつかれたような焦燥感が漂う不安定な心が垣間見えます…。
儚げに虚空をさまように奏でられる第2主題は、
天からの慰めやいたわりのように響いてきます。
波状的に押し寄せる死への不安と、慰撫されるような安らぎのひととき。
運命に翻弄される青年の姿を投影したような、印象的なポリーニの演奏!
【第2楽章:Andantino】
寂寥とした荒野をあてもなく独りとぼとぼと歩む、
そして歩むほどに孤独感が深まってくる、救いのない哀しみに覆われた主部。
彼岸への憧れに救いを求めるひたすらさが、
このように類稀な、清らかな哀しみに満ちた音楽を産み出したのでしょうか?
無垢な清らかさに溢れた、ポリーニの素晴らしさ!
しかし中間部では、言いしれぬ恐怖感に襲われ、理性を失って絶叫するシューベルトの姿が…。
【第3楽章:Scherzo;Allegro vivace】
儚さを感じさせつつも、戯れに興じるようなワルツやレントラーは、
救いの見出せない、ひとときの慰めなのでしょうか。
中間部では乱れる心が表出された、一種麻薬的な陶酔を思わせる音楽!
【第4楽章:Rondo;Allegretto】
霞の彼方に垣間見える天上での生活への憧れを思わせる、伸びやかな寛ぎに覆われたロンド楽章!
短調へと転調する部分では、果てしない憧れを希求するように、切ない感傷が強く滲み出てきます。
シューベルトの魂と共感し合い、純粋無垢な心で紡がれていくポリーニの素晴らしい演奏です。
是非ともご一聴下さい!