最近聴いたCD

F.シューベルト:ピアノソナタ第20番 イ長調 D959 

マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)


1827年の晩秋に歌曲集「冬の旅」を書き上げたシューベルトですが、

その後亡くなるまでの一年間、病をおして2曲の「ピアノ三重奏曲」、「ミサ曲第6番」、「弦楽五重奏曲」

そして死の僅か1か月前には、3曲の「ピアノソナタ」を完成させました。

これらの作品には共通して、

間近に忍び寄る死への恐怖と真正面から対峙しながらも、

生きることの喜びや悲しみ、孤独、さらには彼岸への憧れに救いを求めるような、

最晩年のシューベルトの、痛切な心の叫びが反映されていると感じられます。


前述した最晩年の3曲のピアノソナタそれぞれは、

その外観的な印象から、情熱的な「第19番」、深いロマンティシズムを湛えた「第21番」と言われており、

今日エントリーする「第20番」は、明るく均整のとれた佇まいを有するとされるソナタ!

しかしながら、私が愛聴するポリーニの演奏からは、

シューベルトの心に内在する彼岸への憧れと同時に、

狂おしいまでの生への執着が聴き取れます。


【第1楽章:Allegro】

冒頭、力強い和音で開始される第1主題は、

決然と何かに立ち向かう意志の力が感じられるものの、

せっつかれたような焦燥感が漂う不安定な心が垣間見えます…。

儚げに虚空をさまように奏でられる第2主題は、

天からの慰めやいたわりのように響いてきます。

波状的に押し寄せる死への不安と、慰撫されるような安らぎのひととき。

運命に翻弄される青年の姿を投影したような、印象的なポリーニの演奏!


【第2楽章:Andantino】

寂寥とした荒野をあてもなく独りとぼとぼと歩む、

そして歩むほどに孤独感が深まってくる、救いのない哀しみに覆われた主部。

彼岸への憧れに救いを求めるひたすらさが、

このように類稀な、清らかな哀しみに満ちた音楽を産み出したのでしょうか?

無垢な清らかさに溢れた、ポリーニの素晴らしさ!

しかし中間部では、言いしれぬ恐怖感に襲われ、理性を失って絶叫するシューベルトの姿が…。


【第3楽章:Scherzo;Allegro vivace】

儚さを感じさせつつも、戯れに興じるようなワルツやレントラーは、

救いの見出せない、ひとときの慰めなのでしょうか。

中間部では乱れる心が表出された、一種麻薬的な陶酔を思わせる音楽!


【第4楽章:Rondo;Allegretto】

霞の彼方に垣間見える天上での生活への憧れを思わせる、伸びやかな寛ぎに覆われたロンド楽章!

短調へと転調する部分では、果てしない憧れを希求するように、切ない感傷が強く滲み出てきます。


シューベルトの魂と共感し合い、純粋無垢な心で紡がれていくポリーニの素晴らしい演奏です。

是非ともご一聴下さい!

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