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R.シューマン:オラトリオ「楽園とペリ」 

ジュリア・フォークナー、ハイディ・グラント・マーフィー(ソプラノ)  
フローレンス・クイヴァー、エリーザベト・ヴィルケ(メゾ・ソプラノ)  
キース・ルイス、ロバート・スウェンセン(テノール)  
ロバート・ヘイル(バス)  
J.シノーポリ指揮  ドレスデン国立歌劇場合唱団・同管弦楽団


30歳の頃から、年ごとに歌曲(1840年)、オーケストラ曲(1841年)、室内楽曲(1842年)の傑作を次々と生み出してきたシューマンですが、

1943年に集中的に取り組んだのが、3部26曲から成るこの大作オラトリオでした。


アイルランドの国民詩人トマス・モアのエキゾチックな物語詩集「ララ・ルーク」の中の「楽園とペリ」に惹かれたシューマンは、

友人にドイツ語への翻訳を依頼すると同時に、自ら台本を作成し、それに基づいて作曲を開始。


大まかな粗筋は、

侵した罪ゆえにエデンの園(楽園)を追放されたペリ(妖精)の一族は、

楽園の門番を務める天使から、「天の満足する捧げ物をすれば、再び楽園に戻ることができる」と知らされ、

それが何かを探し求めながら、様々な地を訪れます。

インドでは、同胞を殺戮した侵略者の王に勇敢に立ち向かって死んでゆく若者の、最期に流した一滴の血を…

エジプトでは、死に至る病に侵され死していく若者の心を癒すために、自らも犠牲となって逝く純粋な乙女の愛を捧げますが、

いずれもエデンの園の閂を動かすには及ばず、より尊く神聖な物が求められました。

しかし、ついにヨルダンのバールベクの谷で、天の求める尊く神聖な魂に出会います。

それは、これまでに様々な悪行を重ねてきた醜悪な表情の罪人が、そんな自分にも怖れを抱くことなく接してくれる無垢な少年に出会い、

その少年に嘗ての自分の姿を重ね合わせて流した、悔悟の涙…

その涙の尊さを知ったことで、ペリたちにとって長らく閉ざされていたエデンの園の閂が、漸く開けられた…

そういった内容のオラトリオです。


全曲通して聴くのは今回が初めてのことでしたが、敢えて粗筋を知らないままに聴き始めました(前述した粗筋は、聴後に歌詞を読んでまとめたものです)。

作品故か、或いは演奏故か、劇的な展開という面では、正直物足りなさを感じましたが、

個々の曲を支配する感情表現や、人物(?)の心の機微が秀逸に描かれているために、想像力が自ずと喚起され、

次第に感動の高まりを覚えながら、一気に聴き通すことができました!


ロマンに溢れた名曲ですが、その中でも印象的だった曲を列挙しますと、

【第1部】

静謐なロマンチシズムが漂う、第1曲冒頭部の美しさ!

第7曲では、高らかに鳴り響くトランペットと、孤独感を漂わせたテナーの朗唱の対比が!

第9曲の重々しい悲しみと、それに続く圧倒的勝利を思わせるフーガ!
このフーガには、若者の死を悲しむペリの姿はなく、
探し求めた物を得た喜びが表現されているようにも思えるのですが…。


【第2部】

第13曲の、さめざめと悲しみが歌われた後、次第の霧が晴れ、光が射し始めるような、美しい四重唱!

第15曲では、病に侵されて死の淵に立ちつつも、愛する人の献身によって癒されていく病人の心が、ワルツによって表現されています!

第17曲、安らかな死への眠りへと誘うホルンの響きと、それに溶け込むような合唱の静謐さには、高貴なまでの美しさが漂います。


【第3部】

第24曲の四重唱は、聴き手の心が清められるようなカタルシスをもたらす、祈りのよう…。

第25曲でのテノール独唱と合唱は、次第に光が射し込むように明るさを増していくにつれて、神聖で類稀な高みへと誘われていきます。


シューマン自身、「私の作った作品の中で、最も美しいもの」と言ったとか。

ロマン派音楽を聴く歓びに静かに浸れる、そんな名曲だと感じました。

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