「クリスマス・オラトリオ」は、イエスが誕生した12月25日〜新年1月6日に至る宗教上の物語が、福音史家によって順を追って語られていきます。
全6部、64曲から成るこのオラトリオで表現されている内容は、概ね以下の通りです。
【第1部:1〜9曲】
皇帝アウグストの命で、住民としての登録をするために、夫ヨゼフと共に彼の出生地ベツレムを訪れたマリアは、
滞在中に臨月を迎えるが、宿泊所はどこも一杯だったので、馬小屋で幼子を出産し、飼い葉桶に寝かせる…。
【第2部:10〜23曲】
キリスト教会では、信者たちを羊に、彼らを保護する務めをおった聖職者たちを羊飼いに譬えるそうです…。
第2部では、羊飼の前に天使が現われ、救い主(イエス)の誕生を知らせる、という場面が語られます。
【第3部:24〜35曲】
救い主の誕生を知らされた羊飼いたちは、ベツレムへと赴き、
馬小屋で起居していたヨゼフとマリア、そして飼葉桶で眠るイエスを見つけ出します…。
【第4部:36〜42曲】
割礼の日を新年1月1日に迎え、イエスと命名された喜びが語られています。
【第5部:43〜53曲】
一段と光り輝く星を見てユダヤの地を訪れた東方の三博士(占星術師)から、ユダヤ人の王となるべく誕生した幼子の存在を聞かされた、時のユダヤ王ヘロデの心は、
大きく動揺し、嫉妬に苛まれます…。
【第6部:54〜64曲】
幼子の様子を探るように、王ヘロデの依頼を受けてベツレヘムを訪れた三博士ですが、
神の導きによって、幼児イエスとマリアを拝み、贈物(乳香・没薬・黄金)を捧げます。
ヘロデたちの目論見は打ち砕かれますが、
彼らもまたイエスの導きによって、神のみもとに住処を見出すのです。
膨大な数のバッハの声楽曲に、未だに手がつけられずにいる私…。
「クリスマス・オラトリオ」も、今回初めて通して聴きました(と言っても、2日に分けてですが)。
下準備として、前述したような内容を把握した上で、聴き始めました…。
バッハの宗教曲と言っても、祝典的色彩が強い作品。
第1部の1曲目からトランペットやティンパニーが壮麗に鳴り響き、祝典的気分が盛り上がりますが、
無信仰で、クリスマスと言われても、ジングルベルとクリスマスソングの聖夜(Silent night!Holy night!)しかイメージできない私には、いきなり違和感が…。
しかし、第2曲の福音史家(ヴンダーリッヒ)によるレチタティーヴォの、若々しく高貴な語り口や、
第3〜4曲にかけてのソプラノ(ヤノヴィッツ)の清楚な美しさに、心洗われるような気持へと導かれていきます。
第2部の冒頭は、全64曲中唯一オーケストラだけで奏される第10曲「シンフォニア」。
羊飼いたち住む夜の野辺を表わした、穏やかで神々しいまでの雰囲気が醸しだされるこの曲を聴くと、
幼稚園時代(クリスチャン系でした)に、教会で牧師さんの話を聴いていた時の情景を想い起こすのです。
第3部では、第26曲の心浮き立つような疾走感は、幼子との出会いに胸躍らせる羊飼いたちの心でしょうか…。
そして第31曲で、アルト(ルードヴィヒ)によって敬虔に気高く歌われる、イエス誕生の喜びを表わすアリアの神々しいまでの美しさは、特筆もの!
第4部は、イエスが誕生して初めての新年を寿ぐように、合唱とホルンの柔和な響きが穏やかさを醸す第36曲。
イエスへの問いかけとその答えが、エコーのようにこだまする、打ち震える胸の鼓動が伝わってくるような第39曲。
第41曲のテノールによるアリアは、管弦楽組曲第2番のロンド楽章のオケが絡み合うよう伴奏に乗って歌われます。
第5部は、心地良い推進力を感じさせるオケの伴奏で、合唱が希望に溢れた心を歌う第43曲で始まりますが、
第48〜50曲に至っては、ユダヤの王の座を取って変わろうとするイエスの誕生を聞いて、に怒り嫉妬するヘロデ王の感情が表出され、曲想は一転します。
華麗なトランペットの響きで始まる第6部(第54曲)は、凱旋の合唱かと思われる堂々としたもの。
それ以降第55曲〜62曲に至る切迫した表現は、ヘロデ王の残虐な陰謀の表現でしょう…。
しかし、最後は祝典的な悦びに溢れつつ、幕を閉じます。
随所で神々しさに満ちた音楽に感動を得た曲であり演奏!
バッハの宗教曲の素晴らしさを実感しつつも、
聖書を理解しえない無宗教な私にとっては、この曲の持つ祝典的な側面や劇的な表現は、理解し辛い音楽であることも、同時に思った次第です。