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ベートーヴェン:ピアノソナタ第7番 ニ長調 

ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ


ベートーヴェン28歳の1798年は、

卓越したピアノ演奏に加え、

モーツァルトやハイドン作品とは一味違った、新鮮な情熱を有した作品にも理解を示す人が次第に増加するにつれ、

創作活動も活発化し、第5〜9番までの5曲のピアノソナタが誕生しています。


そのうちの第5〜7番は、op.10としてまとめて出版されていますが、

中でも第7番は、大規模な4楽章構成を採っており、内容的にも後期の深遠さが垣間見える、大変に興味深い作品とされています。


にもかかわらず、これまで何種類かの著名なピアニストによる演奏を聴いてはいたのですが、

いずれもがインスピレーションに乏しく感じられたために、若者に特有の、観念的な凡作と思っていたのですが、

今日、腰を据えてポリーニの演奏を聴いて、「目から鱗」の思いが…!


【第1楽章:Presto】

たたみかけるような強い口調で疑問を呈してくる、冒頭部主題。

対する第2主題は、颯爽としていて誇らしげなもので、

ここでのポリーニの演奏は、恰も解を得ることの爽快感が表現されたような、実に心地良いものです。

次から次へと発せられる疑問に対して、得意満面に答えていく、そんな趣が感じられます。


【第2楽章:Lento e mesto】

ベートーヴェン自身が、「心の憂鬱を表わし、あらゆる陰影や相を描く」と言ったというこの楽章。

この楽章でのポリーニは、若者が描く観念的な幻想や瞑想の世界と、それらへの憧れを表現したような演奏を展開。

前述したベートーヴェン晩年の深遠さとは一味違った瑞々しい感性が伝わってくる、見事な演奏だと思います。


【第3楽章:Menuetto、Allegro】

メヌエット部は、愛らしくってチャーミング!

「エリーゼのために」の作曲家であったことを、思い出しました。


【第4楽章:Rondo、Allegro】

第1楽章とは一転して、執拗なまでに疑問が呈されるものの、

解が見いだせることなく混沌の中に陥っていくような、そんな趣が感じられる終楽章。

ここに至って、「人生、そんなに甘いものじゃないよ!」と自嘲するベートーヴェンの姿が思い浮かんできました。


終楽章を聴き終わって、この曲はやはり観念的な要素の強い作品だとは思いましたが、

その観念の実態は、若者が思い描く夢や憧れでもあること、

そんな曲の真実を見事に描き切った、ポリーニの演奏でした!

この曲を今一とお考えの方には、是非とも聴いて頂きたい演奏です。

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