しかし第1楽章は着想されたものの、思うように筆は進まず、
モスクワ在住の精神科医から心理療法を受けることによってようやく自信を回復、
1900年に第2、3楽章が、翌年になって難関だった第1楽章が完成。
1901年の秋、作曲者自身のピアノ独奏によってモスクワで行われた初演は大成功に終わり、
1世紀以上が経過した現在も、このジャンル屈指の人気作品として、しばしば演奏会で採り上げられています。
嘗ては、リヒテルのピアノとヴィスロッキ/ワルシャワ国立フィルの、泰然と構えられていて、且つむせかえるような濃厚なロマンに溢れた演奏を、マイ(my)決定盤として愛聴していましたが、
今日は、この演奏に比べると端正で穏やかな表現ながら、深い情感と清楚で爽やかなロマンが感じられる最近の愛聴盤、
アシュケナージとハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ(1984年録音)による演奏をエントリーします。
【第1楽章:Moderate】
静けさの中から決然と、そして次第に深みを増しながら高まっていく独奏ピアノの和音連打は、ロシア正教の鐘を象徴するとか。
オーケストラが奏する暗い情熱を湛えた第1主題は、広大無辺な北の海を思わせる如くに、豊かで壮大なロマンに溢れた音楽です。
独奏ピアノによって登場する、細やかな情感を湛えた第2主題は、甘美で美しいもの…。
寄せては返す波がうねり、岩に砕け散るように、次第に力強さを増しつつ、
曲は壮大に展開されていきます。
【第2楽章:Adagio sostenuto】
1945年制作のイギリス映画「逢引き」に使われたことによって、日本国内で遍く知られるようになった音楽。
ピアノのアルペッジョとフルート、クラリネットが静かに絡み合い、霧雨に煙る晩秋の風情を髣髴するような、甘く切ないメランコリーの世界が広がります。
【第3楽章:Allegro scherzando】
ラプソディックに繰り広げられる第1主題は、喜びのあまりに、我を失ったように迸る感情の表現でしょうか。
言いしれぬ郷愁を感じさせる、素朴な抒情を湛えた第2主題の美しいこと!
そして、二つの主題が絡まりつつ訪れる、圧巻のクライマックス!
あらためて聴き直したこの演奏は、自然な流れの中に心地良い緊張感を保ちつつ、深い感動を漲らせたもの。
ラフマニノフに抱く、濃いロシアン・ロマンとは一線を画したものかもしれませんが、
爽やかな感動を呼ぶ名盤として、ご一聴をお薦めしたいと思います。