ブルッフも又、「スコットランド幻想曲」や「コル・ニドライ」(共に1880年に作曲)に代表されるように、生涯にわたって民族的な題材への興味を抱き続けました。
彼が72歳の1910年に出版された室内楽作品「(ピアノ・チェロ・クラリネットの為の)8つの小品」も又、
豊かな旋律性に加えて、民族音楽的な要素が滲み出た魅力溢れる作品集。
昨日(11/12)の午後から、浅間山には冬の雲が覆い始め、俄かに冬の様相を呈してきましたが、
こんな日には、クラリネットの渋く侘しい響きが、いつも以上に心に沁み入ってきます。
【第1曲:Andante】
【第2曲:Allegro con moto】
【第3曲:Andante con moto】
【第4曲:Allegro agitato】
【第5曲:Andante(ルーマニアの旋律)】
【第6曲:Andante(夜想曲)】
【第7曲:Allegro vivace、ma non troppo】
【第8曲:Moderato】
ディズニーのアニメ映画に登場するような、軽妙な第7曲を除くと、
殆どの曲には、共通して仄かな哀愁を感じさせる甘いロマンチシズムが漂っており、
必ずしも、全曲を通して聴く類の作品ではないように思います…。
中で最も印象的だったのは、第5曲「ルーマニアの旋律」
この曲に流れる、切々たる望郷の念は、
チャウセスク政権に疎んじられて、孤独な流浪の日々を送ったルーマニアの音楽家によって紹介された逸話と、
天満敦子さんのヴァイオリン演奏で注目を集めた、「望郷のバラード」を髣髴させるもの。
まだ大阪に住んでいた12年ほど前に、知人に紹介されて聴いたことを思い出して、
このところ涙腺が緩みっぱなしの60歳代半ばのオジサンは、またまた涙ぐんでしまいました。
もう1曲を挙げるとすれば、さらさらと流れる水のようにさりげなく開始されるのですが、
通り過ぎていく風景に、懐かしい想い出が蘇ってくるような、そんな趣の一曲です。
知られざる作品ですが、秋の夜長に興趣を添える、なかなかの佳曲だと思います。