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シベリウス:組曲「ペレアスとメリザンド」

ネーメ・ヤルヴィ指揮  イェーテボリ交響楽団


メーテルランクの戯曲『ペレアスのメリザンド』の粗筋は、

森の中の泉の畔で泣いていた神秘的なうら若き少女メリザンドが、

狩りで森に迷い込んだ王族の跡継ぎで、半年前に妻を亡くしたゴローに見染められ、後妻として迎えられます。

しかし、ゴローの年の離れた異父弟ペレアスもまた彼女に惹かれ、二人はお互いに心を許しあって…。

嫉妬に駆られたゴローは、二人の密会現場を捉えてペレアスを殺害、

メリザンドも、その時に負った傷が命取りとなり、

お腹に宿したゴローの子を産み落として、そのまま息絶えてしまう、というもの…。


拭い去れない宿命を負った主人公たちの悲劇的運命が描かれたこの物語にインスパイアされて、

フォーレ(1898:英訳によるロンドン初演)、ドビュッシー(1902:オペラ)、シェーンベルク(1903:交響詩)らが、ほぼ同時期に作曲の筆をとりました。


1905年、スウェーデン語に訳されてヘルシンキで上演される際に、

その付随音楽がシベリウスに委嘱され、

7曲の前奏曲と間奏曲、2曲のメロドラマ、そして1曲の歌曲が書き上げられました。

劇の上演後、シベリウスは、曲順を入れ替えて、9曲から成る組曲に編曲しました。


バルビローリの演奏は、組曲の中から4曲が抜粋されていて、激しい感情移入で聴き手を号泣させるもの。

嘗てはこの演奏が好きだったのですが、

この歳になると、さすがに気恥ずかしさが感じられてしまって…。

で、全9曲にわたって儚い諦観を漂わせた、父ヤルビィの演奏をエントリーします…。


【第1曲:城門で】
狂おしいまでに人を恋うる想いと儚さの中に、悲劇の予兆が感じられる、幕開けの音楽です。

【第2曲:メリザンド】
ため息を思わせる、イングリッシュホルンの孤独で物悲しさを覚える旋律が印象的な曲。
清楚で愛らしいメリザンドを表現しているのでしょう。

【第3曲:海辺で】
烈風が吹き荒び、海鳴りが聞こえる不気味さを漂わせた描写的な音楽。

【第4曲:庭園の噴水】
愉しげな中に一抹の陰が感じられるのは、道ならぬ逢瀬を楽しむ二人の心を表現しているのでしょう。

【第5曲:3人の盲目の姉妹】
オーボエの奏でる旋律の希薄な存在感は、顧みられることのない、悲しい運命を感じざるを得ません。
あまりに悲しいのですが、素晴らしい曲です!

【第6曲:パストラーレ】
密やかな喜びが感じられる、牧童の歌。

【第7曲:糸をつむぐメリザンド】
暗い運命へと突き動かされていく悲しみ、光の見えない絶望が感じられる作品…。

【第8曲:間奏曲】
華やかな舞踏会を思わせるこの間奏曲は、二人が見る“一場の春夢”でしょうか。

【第9曲:メリザンドの死】
すすり泣きが、やがて慟哭へと…。メリザンドの死を悼む鎮魂歌のごとくに響きます。


抗うことのできない運命に翻弄されることへの諦観が滲み出た、父ヤルビィの名演だと思います。

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